「食べる」という行為は、生きるための基本的な営みである。その「食」を通して、人間として生きる力を育む「食育」。桐生市新里町のすぎの子幼稚園・おおぞら保育園(小池文司理事長)は、心身ともに健康で人間性豊かな子どもを育てようと、さまざまな食育活動を実践し成果を上げている。
「食育」で
生きる力を育む
食事マナーやコメ作り
「いただきまーす」。教室いっぱいに元気な声が響きわたる。園児たちの大好きな給食の時間。目の前のご飯やおかずを、器用に箸[はし]を使って口に運ぶ。きちんと姿勢を正し、食事を心から楽しんでいる様子だ。
「食事マナーも食育の大切な要素です」と、同園管理栄養士の杉島恵さん。箸の使い方からあいさつ、食べ方、姿勢までしっかり指導している。2歳児から磁器の茶わんや皿を使用しているのも、日本の伝統的な食文化を伝えるためだという。
園舎の周囲には、近隣の農家から借りた田畑が広がる。園児たちは毎年、籾[もみ]まきから田植え、稲刈り、脱穀、そしてもちつきまで年間行事として携わり、主食のコメがどのようにしてできるのかを学んでいる。「泥んこになって田植えをしている子どもたちのはしゃぐ姿が、とても印象的です」と、すぎの子幼稚園の知久賢治園長。
給食の残飯、有機肥料に
畑では野菜の栽培にも力を注ぐ。季節に合わせてピーマン、ナス、トマト、大根などを種や苗から育てている。「収穫したものはその場で食べたり、給食に取り入れたりしています。みんなで大切に育てた野菜だと説明すると、苦手なものも食べようとしてくれます」と杉島さん。栄養バランスの点で、好き嫌いをなくす指導も食育には欠かせない。
園長がコックに扮[ふん]して子どもたちと料理を楽しむ調理体験や、給食職員と園児との年11回の合同会食も食育の一環。保護者の一日保育参観の際には、給食の試食を通じて、食育への理解が深まるよう努めている。
昨年から残飯の肥料化に取り組む。園児たちが食べ残した給食をざるで水切りし、米ぬかと糖みつ、微生物を混ぜて2週間ほど寝かせる。これを畑にまいてかくはんすると、肥沃[ひよく]な土壌が出来上がる。「作業は常に園児たちが主役です。最初は気持ち悪いと言って嫌がる子もいましたが、いまでは進んで肥料や土作りなどに参加しています」
「菌ちゃん」と名付けた有機肥料のおかげで野菜は大きく育ち、収穫の喜びも増大した。作業を通して子どもたちは、食べ物の循環(食物連鎖)を知り、命をいただくことへの理解を少しずつ示すようになったという。「以前に比べ、給食の食べ残しが減りました」と、知久園長は活動の成果をかみしめている。