人間に必要な栄養素とは、体内において消化・吸収され熱量(エネルギー)を発生するたんぱく質・脂質・炭水化物が必須ですが、体の調子を整えるためのビタミンやミネラルも大切です。ほかにも飲用や調理に利用する水も外部より摂取する必要があります。
私たちはこれらの栄養素だけを単体で摂取するのではなく(サプリメントやビタミン剤を“飲む”だけではなく)、食べ物に含まれる栄養素を効率よく摂取することが必要です。
今回は、ビタミン類の中でもよく知られているビタミンCについてお話します。
執筆者略歴
専門は公衆栄養学、医学博士
東京農業大農学部栄養学科卒業後、特定給食施設の現場で管理栄養士業務を行う
その後国立がんセンター研究所、大学を経て2008年4月より現職
元気な暮らしに役立つ栄養素のお話…高橋東生
桐生大医療保健学部栄養学科教授
知っていますか?
機能
ビタミンCは、皮膚や細胞のコラーゲンの合成に必要です。ビタミンCが不足すると、コラーゲンの合成ができないので血管がもろくなり出血傾向となり、壊血病[かいけつびょう]となります。壊血病の症状は、疲労倦怠[けんたい]、いらいらする、顔色が悪い、皮下や歯茎からの出血、貧血、筋肉減少、心臓障害、呼吸困難などです。
また、ビタミンCは抗酸化作用があります。生体内でビタミンEと協力して活性酸素を消去して細胞を保護しています。
消化・吸収・代謝
ビタミンCは、消化管から吸収されて速やかに血中に送られます。消化過程は食品ごとに異なり、一緒に食べるほかの食品によっても影響を受けます。ビタミンCは例外で、食事から摂取したビタミンCもサプリメントから摂取したビタミンCも、その相対生体利用率に差異はなく、吸収率は200mg/日程度までは90%と高く、1g/日以上になると50%以下となります。
喫煙者(タバコを吸う人)は非喫煙者よりもビタミンCの必要性が高いことが認められています。同様に受動喫煙者でも認められています。喫煙者は、まず禁煙が基本的対応であることを認識して、同年代の推奨量以上にビタミンCを摂取することが推奨されます。
過剰摂取の回避
通常の食品で可食部100g当たりのビタミンC含量が100mgを超える食品が少し存在しますが、通常の食品を摂取している人で、過剰摂取による健康障害が発現したという報告は見当たりません。
ただし、腎機能障害を有する人が数gのビタミンCを摂取した条件では、腎シュウ酸結石のリスクが高まることが分かっています。
ビタミンCの過剰摂取による影響として最も一般的なものは、吐き気、下痢、腹痛といった胃腸への影響があります。1日に3~4gのアスコルビン酸を摂取すると下痢が起こるとの報告もあります。
ビタミンCの摂取量と吸収や体外への排泄を検討した研究から総合的に考えると、通常の食品から摂取することを基本とし、いわゆるサプリメント類から1g/日以上の量を摂取することは推奨できません。
期待される抗酸化作用
栄養学の教科書を見ると「ビタミンCはその強い抗酸化活性のほか、コラーゲン合成の補助因子としても重要である。さらに、肝臓の解毒代謝にかかわるシトクロムP-450の酵素活性の維持や副腎ホルモンの生合成に、またチロシン代謝にも不可欠である。そのほか、腸管からの鉄吸収に関与し、摂取食物由来の鉄を2価鉄に維持することにより鉄吸収率上昇に関与している」との記述がみられます。
ここでいう抗酸化活性とは、老化などの原因となる活性酸素の発生を抑える働きのことで、その作用を持つビタミンの総称を抗酸化ビタミンと呼びます。
活性酸素の影響
活性酸素は、体内に取り入れた酸素が全身に運ばれる過程で発生し、本来は細菌やウイルス、有害物質などを無害化する作用があります。しかし、過剰に発生すると、細胞膜に過酸化脂質を増加させて、細胞の老化を早めたり、血中LDLコレステロールを酸化させて動脈硬化を進行させたり、細胞の遺伝子を傷付けてがんを作ったりする要因と考えられています。
喫煙による活性酸素の増加が、細胞を傷付けがんを増加させるのみでなく、ビタミンCの破壊を促進し、しみ、くすみなどの原因となるメラニンを増加させてしまうことが知られています。したがって、喫煙の害から身体を守るためには、非喫煙者よりも多くのビタミンCを摂取することが勧められています。
ビタミンCには抗酸化作用のほか免疫力増強作用により、発がんリスクを低下させることも期待されています。胃粘膜の萎縮を抑える作用がある可能性も分かっていることから、がんの中でも、特に胃がんの予防効果が期待されています。
胃がん発生率の高い地域で行われた無作為比較試験では、胃がんのリスクを高める萎縮性胃炎の人250人に、ビタミンCを50mg、または500mgのどちらかを5年間毎日服用してもらいました。
その結果、血中ビタミンC濃度は、50mgのグループでは摂取前より約13%上昇、500mgのグループは約39%上昇。50mgグループより500mgグループのほうが、胃粘膜の萎縮の進み具合がより抑えられていました。
ビタミンCは胃の中で発がん物質の生成を抑える働きがあるのですが、胃にヘリコバクター・ピロリ菌がいて炎症が起きている場合は、炎症による活性酸素の発生を抑制するためにビタミンCが使われ、血中ビタミンC濃度が低くなってしまうという説もあります。
野菜や果物から取ろう
すでに慢性胃炎や萎縮性胃炎の人は、ビタミンCが不足しないように毎日摂取して補う必要があります。ビタミンAやEは、取りすぎると体内にたまって副作用が出ることがありますが、ビタミンCは取りすぎても水に溶けて排泄されるので、副作用の心配はほとんどありません。
健康な人のビタミンC摂取量の目安として、1日の推奨量は男女とも成人で100mgとされています。
ビタミンCは体内で合成することができないので、食べ物から摂取する必要があります。ただし、サプリメントに頼る前に、ビタミンCを豊富に含む野菜や果物を取ることを心掛けましょう。
ビタミンCを多く取るには
ビタミンCは野菜や果物に豊富に含まれています。特にピーマン、芽キャベツ、ブロッコリー、ナバナ、カリフラワー、ゴーヤー、ゴールデンキウイフルーツ、レモン、イチゴ、グレープフルーツ、柿などに多く含まれています。
水溶性ビタミンなので、水分に流出しやすい性質があります。また、熱に弱いという特徴もあります。このような特徴を知り、調理によるビタミンCの損失を抑え、効率よく食べることがポイントです。
下の図は食品100g中のビタミンC量を表したものです。1回に食べる量を考えると、果物の方が簡単に摂取できるかもしれませんね。