元気流儀インタビュー

江戸末期に創業した伊香保温泉の老舗旅館、塚越屋七兵衛の大女将で群馬女将[おかみ]の会長、塚越裕子さんは5年前に心筋梗塞で倒れ、約1カ月間の入院を余儀なくされた。女将で長女の左知子さんら家族の支えの下、食生活を改め、新たに始めたヨガで健康を維持。県公安委員長としても精力的に活動している。

笑顔でおもてなし
好きな物でも一口残す

裕子さん(右)からおもてなしの心を受け継いだ左知子さんは 「家族が体調の変化に気付くことが大切」と語る

「神様が教えてくれた」

─2011年7月、夕方仕事を終えて自宅に戻ると突然、強い胸の圧迫感に襲われた。長男の正浩さんに助けを求め、救急車で病院に搬送されたが途中で意識を失った。心筋梗塞だった。

裕子さん自分でも驚いたくらいだった。今まで味わったことのない何とも言えない嫌な気分がした。人間ドックは毎年受けていたが特に問題はなく、大きな病気なんて一度もしたことがなく健康だった。全国へ講演に出掛けているが、遠方でも新幹線で日帰りするほど多忙な毎日。睡眠時間も少なく、夜遅く帰ってから食べる習慣ができていた。こうした積み重ねに体が悲鳴を上げたのだろう。病気の後、詳しい検査で睡眠時無呼吸症候群や隠れ糖尿病が見つかった。どれだけ毎日いい加減に過ごしていたのか、神様が教えてくれたのかもしれない。

─搬送された群馬大病院で主治医の庭前野菊さんに出会えたことが、健康を取り戻す上で大きな助けとなった。

左知子さん家族のように診てくれる医師。壁を作らずに私たちが何でも聞ける環境を作ってくれるのがありがたい。

裕子さん厳しくはっきりものを言うけれども気の合う先生。健康な生活を送れるよう上手に誘導してくれる。庭前先生が前橋赤十字病院に移った後も月に一度、診察してもらっている。「好きなものを食べていいから一口残しなさい」。庭前先生の言葉の意味がようやく分かってきた。食べることは楽しみだから制限することは難しいけど、病気を意識すると、好きなものでも考えて食べることができる。365日忘れずチェックしている。倒れた時のあの感じは二度と味わいたくない。

「素の自分に戻る時間」

体調管理に役立っているヨガ

─退院後、好きだったゴルフをするのが体力面で難しくなった。代わりに体の負担の少ないヨガを3年ほど前から始めた。指導するのは同じ伊香保温泉の千明仁泉亭大女将の千明佳寿子さん。伊香保周辺に住んでいる女性たちが集まり週1回開いている。

裕子さん無理のない運動を探してたところ佳寿子さんが誘ってくれた。先生がほめ上手なので今も続けている。普段あまり動かさない筋肉を使うので、最初は3、4日痛くて動けないくらいだった。元々柔軟な体がもっと柔らかくなって、朝起きた時に体が楽になった。通いながら皆で会話するのも楽しい。生まれ育った石段街を歩くと知り合いが大きい声で「裕子ちゃん」と声を掛けてくれる。素の自分に戻れる時間が、いい薬になっている。

「家族の気付きが大切」

毎食一番最初に食べるサラダは、見栄えを意識する練習も兼ねて板前が美しく飾り切りして用意してくれる。モリンガのドリンクは間食代わりに飲むことも多い。食物繊維が豊富で腸内の環境を整えてくれるという

─女将の仕事は多忙だ。仕事の合間に急いで食事を取ることが多く、唯一ゆっくりできる夕食もしばしば夜遅くなる。不健康な生活習慣になりがちだ。病気の後、左知子さんと正浩さんと一緒に食生活を見直した。

裕子さん揚げ物といった脂っこいものが好きだった。ご飯が好きで寝る前に2杯食べることもあった。野菜を意識して食べることも少なかった。病気になった後、まずサラダから食べるようにしている。

左知子さん板前に準備してもらったサラダに減塩のポン酢とエゴマ油をかけて食べている。医師に確認をとって数種類飲んでいたサプリメントを止め、腸内環境を整えるワサビノキ(モリンガ)をドリンクにして飲んでいる。食生活を見直した結果、2人とも10キロ以上減量に成功した。

裕子さんゆっくり噛むようにしている。胃が小さくなったせいか、あまり量も食べなくなった。病気の後、家族で健康について話す機会もできた。

左知子さんとにかく食生活が一番。一人では頑張れないことでも一緒なら頑張れる。病気になったことを嘆くことよりも病気に気付かされたことが多かった。健康って最も大事なのに最も意識しないもの。家族が変化に気付いてあげることがすごい大切なんだと感じて、母を見守るようになった。本人が元気になろうとする気持ちがあるのがよかった。

─群馬女将の会で作った標語「笑顔と会話と我慢」。病気の後、標語の重みを再認識したようだ。

裕子さん我慢は耐え忍ぶという意味だけでなく継続し続ける意味も含んでいる。おもてなしの基本は笑顔。初対面で感じのいい笑顔で接しないと長いお付き合いはできない。健康でなければ、いい笑顔になれない。最近は旅慣れたお客さんも多いので、作った笑顔はすぐ分かる。お客さんに接する社員一人一人が旅館の主役。顔色が悪かったり気になる社員がいたら、まず話しかけてみる。みんなが気持ちよく働ければ、すべての幸せにつながってくる。

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