認知症の症状は、記憶などに障害を来す「中核症状」と、徘徊[はいかい]や暴言などのBPSD(行動・心理症状)に分けられます。これらの症状によって生まれた認知症の本人と介護する家族の感情的な衝突が、さらなるBPSDの悪化につながります。この悪循環を避けるためにも認知症の人の心理を理解して尊厳を守らなければなりません。群馬大学院保険学研究科教授の山口晴保さんは「褒めることと、日課や居場所を作ることが大切」とアドバイスします。
気持ち理解して
認知症介護
認知症の人の生活管理能力は、軽度の状態でも小学校低学年から園児並みになってしまいます。進行すると、食事やトイレといったそうれまで当たり前にできたことができなくなり、自信と尊厳が失われて自分の生きがいがなくなってきます。できないことを家族が感情的に注意したりすると、不安や不満を募らせ、暴言や暴力といったBPSDの症状が強くなる場合があります。
残された力 あきらめず使う
アメリカで修道女の集団を調査した「ナン・スタディー」という研究があります。生前の認知機能が正常だったにもかかわらず、死後脳を調べると数%ですが、たくさんのアルツハイマー脳病変が確認できた人がいました。病変がたくさんできたら症状がでるものですが、必ずしもそうとは言い切れないことが分かりました。脳にはかなり予備力があります。認知症になってもあきらめないで残された力を上手に使えば、症状を多少軽くしたり、進行を遅らせることもできます。
尊厳を守る感謝の言葉
認知症の人の尊厳を取り戻すためには、「ありがとう」といった感謝の言葉をかけ、同時に役割を持ってもらい、家の中に居場所をつくることを心掛けてください。家事や育児を手伝ってもらうことも有効です。昔の自分を思い出せる古い道具は自信を回復させるのに効果的です。古いものを残すのが難しい場合は、その人が輝いていた時の症状や家族の写真をまとめてファイルし、機嫌が悪くなった時などに見せながら昔話をするといいでしょう。
運動と食事で脳を健康に
認知症の主な原因は、脳内に特定のタンパク質のごみが貯まることです。血管障害も要因の一つとなるので、若い時から血圧の管理をしっかりすることが大切です。脳内にごみを貯め過ぎないために必要なことは、一に運動、二に食事です。有酸素運動をして脳由来神経栄養因子が脳内でたくさん作られる人は、病変があっても進行が遅いことが最近の論文で報告されました。散歩の場合は1日5000歩を目安にしてください。運動ができなくても雑巾がけなどの食事を日課にして体を動かしてください。食事は動物の脂肪を控えめにして、魚は時々食べるようにしてください。腸内環境を整えるヨーグルトや漬物といった発酵食品をとるのもおすすめです。