シリーズ からだ元気

トマトやスイカの赤い色素成分である「リコピン」は、β-カロテンと同じカロテノイドの一種です。その名前はトマト(Lycopersi-con esculentum mill.)から最初に取り出したことに由来しています。

「リコピン」は、近年になって強い抗酸化作用を持っていることが明らかになり、体に与える働きが注目を集めています。その働きや効率よく摂取する方法について紹介します。


執筆者略歴 あらい・かつみ 日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部畜産学科卒。茨城大学大学院農学研究科資源生物化学専攻(修士課程)終了。イセファーム(株)で鶏卵の生産管理を経て、同社飯沼研究所で企画卵の研究開発や鶏および鶏卵の品質管理等に従事。2001年から桐生大学の前身である桐生短期大学着任。専門は食品学。


元気な暮らしに役立つ栄養素のお話…荒井勝己 桐生大医療保健学部栄養学科准教授 若さを保つトマトを食べて 「リコピン」

カロテノイドって何?

カロテノイド(Carotenoid)の語源は、ニンジン(carrot)から取り出されたカロテン(carotene)に由来します。主に野菜や果実などに含まれる黄・橙・赤色の天然脂溶性色素の総称で、自然界に約700種類以上が存在しています。

カロテノイドは、炭素と水素だけからなるカロテン類と、炭素と水素に加えて酸素を含むキサントフィル類に分類されます。カロテン類としてはトマトに含まれるリコピンや緑黄色野菜に含まれるβ-カロテン、α-カロテンなどがあります(表1参照)。キサントフィル類としては、温州みかんに含まれるβ-クリプトキサンチンやとうがらしに含まれるカプサンチン、とうもろこしに含まれるゼアキサンチンやルテインがあります。植物以外では、カニやエビの甲羅や紅鮭に含まれる赤色色素のアスタキサンチンが有名で、キサントフィル類に分類されます。

なかでもa-、β-、γ-カロテン、β-クリプトキサンチンのようにβ-イオノン環をもつものはプロビタミンAと呼ばれ、体内でレチノール(ビタミンA)に変換されるため、ビタミンA効力を持っています。リコピンを含む他のカロテノイドはβ-イオノン環を持たないためビタミンA効力は持っていませんが(図1参照)、各カロテノイドについては、積み重ねた臨床結果や科学的根拠により、疾病の予防や改善が認められたという報告がされています。

動脈硬化症予防とリコピン

日本人の死因の第2位と第4位は、「心疾患」、「脳血管疾患」ですが、動脈硬化が主な原因となる循環器系疾患です(図2参照)

動脈硬化症は、食事・運動・喫煙・飲酒・ストレスなどの生活習慣に大きく影響を受けることがわかっています。特に、動物性脂肪の多い高カロリーの食事は、血中の低密度リポたんばく質(LDL-)コレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪を増やし、過酸化脂質を増加させます。それらが血管壁に蓄積して厚く、硬くなることで血液が流れにくくなり、血管を詰まらせ、血管が破れる原因となるのです。

「抗酸化作用」というとビタミンEが注目されていますが、「リコピン」はビタミンEの100倍の抗酸化力を持っていることがわかってきています。では、抗酸化作用とはどのようなものなのでしょうか?

私たちは、空気を吸って生活しています。空気中の酸素は、炭水化物を酸化してエネルギーを作り出すために使われています。ところが体内に入った一部の酸素は、代謝の過程で「活性酸素」という反応性の高い物質に変わってしまいます。この活性酸素は、ウイルスや細菌に対する感染の防御や有毒物質を無毒化する作用がある一方で、過剰になると、細胞膜に過酸化脂質を増加させて、細胞の老化を早めたり、血中のLDL-コレステロールを酸化させて動脈硬化を進行させたり、遺伝子(DNA)を傷つけて細胞が、がん化する要因となります。

「リコピン」は、体の中で生じた活性酸素を取り除く働きを持っています。また、「リコピン」は血液中では主にLDL-コレステロールと一緒に運ばれることで、LDL-コレステロールの酸化を防ぐことから動脈硬化症の改善につながることが、トマトやトマト加工品を摂取する実験結果から報告されています。

ただし、「リコピン」だけを摂取すれば動脈硬化症を予防できるわけではありません。日頃からバランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、体重・血圧測定による自己管理を心掛けて動脈硬化症を予防することが大切です。

抗酸化作用には、動脈硬化症のような血管系疾患以外にも活性酸素が発症に影響を与える、がんや肌の老化などに対しても抑制作用が期待されています。人がトマトやリコピンを直接摂取する研究が増える中で、体内でのリコピン濃度の上昇が効果的であるというよりも、「リコピン」が不足することで引き起こすリスクの方が問題であることがわかってきています。

日本人の場合、血液中には約0.35~0.70μm/Lの「リコピン」が含まれていると報告されています。しかし、「リコピン」は体内で合成することができないため、摂り続けないと減少します。また、一度に大量に摂取しても体内に蓄えることはできません。体内でのリコピン濃度を一定以上に保ち、がんの発生や肌の老化を抑えるには「リコピン」を含む食品を毎日継続して摂取することが大切です。

リコピンを効果的に摂取するには?

「リコピン」を含む食品としては、スイカや柿・ピンクグレープフルーツ・グアバなどがあります。しかし、「トマトに含まれる成分は?」と質問すると、今ではほとんどの人が「リコピン」と答えるように、食品のなかで最も多くのリコピンを含んでいるのがトマトです(100g当たり約9mg)。体内の「リコピン」の80パーセント以上が、トマトやトマト加工品から摂取したものという報告があるほどです。では、トマトから効率よく「リコピン」を摂取するにはどうすればいいのでしょうか?

「リコピン」は構造上、油に溶けやすい性質です。そのため生で食べる場合は、オリーブオイルやドレッシングをかけた方がより吸収率が高くなります。また、熱にも比較的強いので、長時間煮込むトマトソースやシチューでも効率よく摂取できます。健康に気を遣い野菜ジュースを飲んでいる人も多いと思いますが、ぜひ材料の一つとしてトマトを入れてください。

「トマトが赤くなると医者が青くなる」という言葉があります。これはトマトを使った料理がたくさんあり、年間のトマト消費量が日本の約10倍というイタリアの言葉です。「リコピン」を多く含む真っ赤に熟したトマトには、糖分やビタミン・ミネラル・食物繊維などの栄養素も豊富に含まれていて、トマトを食べることで、病気になりにくくなるという意味です。トマトによる健康効果は、昔も今も、世界中で注目されているのです。

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