2011年に心筋梗塞のため34歳で死去したサッカー元日本代表で前橋育英高出身の松田直樹さん。闘志あふれるプレーは多くの人の記憶の中で生き続けている。直樹さんの姉、真紀さんは弟に起きた悲劇が再び起こらないように、救急隊や医師に引き継ぐまでの間に心肺蘇生などを行う一時救命措置(BLS)の普及活動に取り組んでいる。目標へ向かい仲間とともに歩む姿は、チームメートやファンとの絆を大切にして、情熱的にピッチを駆け抜けた直樹さんと重なる。
にぎやかな食卓彩る
塩分控えめ母の味
何か私にできることを
─直樹さんは11年8月2日、長野県松本市内のグラウンドで練習中に突然倒れた。救急車が到着するまで、見学に来ていた看護師が胸骨圧迫したが、練習グラウンドにはAED(自動体外式除細動器)がなかった。すぐに信州大病院に運ばれたが、2日後にはなくなった。同じ年に看護師になったばかりの真紀さんは信州大病院の看護を見て、高度医療に携わりたいと決意した。高崎市内の病院から済生会前橋病院へ13年に転職し、循環器内科・心臓血管外科病棟で働いている。
信州大病院のスタッフが最善を尽くしてくれました。私が知らない高度医療の現場を見て、私にも何かできることはないかと思い、済生会前橋病院に就職しました。現在、弟と同じような病気の患者さんと接しています。患者さんと弟の姿が重なるところがあります。弟は残念な結果になりましたが、症状に早く気付いて助かった方や治療できて退院される方を見ると、本当に良かったなと感じます。やはり体調の異変に気付いたら、早めに病院に行くことが大切です。病気はいつ、どこで起こるか分からないもの。突然、大切な家族がいなくなってしまう悲しみは、時間が解決できるものではありません。
理解深めて仲間助けて
─弟がずっと続けたかったサッカーを弟の分まで楽しんでほしい。安心安全にスポーツを楽しむ環境を作りたいと、2年ほど前から各地のBLS講習会で直樹さんのことを語り、仲間同士で助け合うことや早期治療の大切さを伝えている。先月11日に行われたヤマダ電機サッカークリニック&AED講習会では、同僚の看護師や直樹さんのチームメートだった前橋育英高OBも手伝い、児童100人とその保護者に胸骨圧迫の方法やAEDの使い方を指導した。
子どもや初めての人でも分かりやすいようにフリップを使って解説しています。1回目の講習会で分からなくても2度3度と回数を重ねる事で、理解が深まります。サッカーの魅力は仲間と一緒にプレーできるところです。大切な仲間が倒れた時、最善を尽くして助けられるようになってほしい。
支えてくれる人の絆に感謝
─多忙な真紀さんの健康を母の正恵さんが食の面から支えている。料理には自宅の庭で育てた採れたての野菜をふんだんに使っている。塩分控えめでもシイタケやかつお節などでしっかりだしを取るので味わい深い。コレステロールの管理に役立つといわれるアオサやゴマを料理に少し加えている。また、立ち仕事が多い真紀さんのためにむくみ予防に効果があるとされるキュウリを入れたデトックスウオーターを毎日作っている。
デトックスウオーターを飲んでから少し肌の調子がよくなってきました。家族の支えがあるからこそ、仕事に打ち込めます。いつも見守ってくれる母に感謝しています。仕事とBLSの活動を両立することがとても大切だと思います。中途半端な仕事をしていると弟に怒られてしまいそうですから。
─直樹さんの元チームメートらと囲むにぎやかな食卓にも癒されている。
ミスが許されない職場です。疲れてくると集中力を欠いてしまうので、しっかり休むことを心掛けています。弟は仲間やサポーターとの絆を大切にしてサッカー人生を楽しんでいました。今でも弟を思ってくれる仲間やファンとの絆が、私と家族に元気を与えてくれます。