シリーズ からだ元気

ブドウやブルーペリーに含まれていることで知られるアントシアニン。実は、夏野菜のナスにも多く含まれているのを知っていますか。アントシアニンは、植物界に広く存在する色素で、花や果実の赤・青・紫などの色を表現するのに役立っています。色だけでなく、現在では視覚機能を改善する効果をはじめ、抗酸化作用やがん予防などさまざまな生体調節機能についても研究されています。


執筆者略歴 あらい・かつみ 日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部畜産学科卒。茨城大学大学院農学研究科資源生物化学専攻(修士課程)終了。イセファーム(株)で鶏卵の生産管理を経て、同社飯沼研究所で企画卵の研究開発や鶏および鶏卵の品質管理等に従事。2001年から桐生大学の前身である桐生短期大学着任。専門は食品学。


元気な暮らしに役立つ栄養素のお話…荒井勝己 桐生大医療保健学部栄養学科准教授 目の健康をサポートする 「アントシアニン」

なぜ花や果実はカラフル?

アントシアニン(Anthocyanin)は、ブドウやブルーベリー、イチゴなどの果実、ナスやシソなどの野菜、美しい花の色に含まれるポリフェノールの一種です。アントシアニンという名前は、ギリシャ語のanthos(花)とcyanos(青)が語源で、「花の青色成分」という意味を表します。実際には青色だけでなく、赤色、紫色などを基調とする鮮やかな色調を示す天然色素であり、現在までに500以上の種類が発見されています。アントシアニンという名称は、配糖体全体(糖が結合した状態)を示しています。非配糖部分である基本骨格のことをアントシアニジンといい、3位あるいは5位の水酸基(-OH)に糖が結合しているものが多く存在します(図1参照)。アントシアニンの色調は、アントシアニジンのB環の水酸基の数が増えると赤色から青色に、またそれらがメチル化(メトキシ基(-OCH3))されると赤紫色~紫色に変化します。

アントシアニンは、pH・温度・金属イオン・酵素などのさまざまな条件により、構造や色調に微妙な変化が生じ、その美しい色調を利用して昔から食品や衣類などの天然着色料として利用されてきました。たとえば梅千しの鮮やかな赤色は、赤シソに含まれるシソニンと呼ばれるアントシアニンによって着色します(市販されているものには合成着色料により着色しているものもあります)。ナスの漬物をつくる際、ミョウバンや鉄釘を添加することでナスニン(ナスに含まれる主要なアントシアニン)とアルミニウムイオンや鉄イオンが反応し、色を安定化させ紫色を保ちます。

近年では、健康志向の高まりとともに、食品の着色としての利用だけでなく、機能性も注目されています。抗酸化作用・視覚機能の向上・メタボリックシンドロームや血糖値上昇の抑制効果など、アントシアニンがもっている生理機能や効果が明らかになり、さまざまな分野での応用が期待されています。

視覚機能に作用

アントシアニンの視覚機能に及ぼす影響については、とりわけブルーベリーにおいて研究が進められてきました。ヨーロッパでは、眼科領城の分野で臨床応用され、夜盲症や糖尿病性網膜症の治療に利用されています。

対象物を光の情報として捉えて信号化し、その信号を脳に伝えて像として判断・認識することを「視党」といいます。この信号を脳に伝えるのが、目の網膜にあるロドプシンです。ロドプシンは、網膜に到達した光刺激によって瞬時に分解され、その化学変化を脳が信号として受け取ることによって、私たちは「ものが見える」という感覚、「視覚」を得ることができます。ロドプシンは、暗所では自然に再合成されるのですが、強い刺激や長時間の光刺激を受けてロドプシンの分解が一方向に進み再合成が遅れてしまうことで光に対する感受性が低下し、ものが見えにくくなる、ぼやけるなどの現象が起こります。アントシアニンは、ロドプシンの再合成を促し、光に対する網膜の感受性を素早く回復させる働きがあると報告されています。視覚機能に対する作用には、アントシアニンのもつ抗酸化作用や毛細血管保護作用、抗炎症作用、コラーゲン合成促進作用などの生理機能が関与していると考えられています。

テレビやパソコン、携帯電話の画面などを長時間見続けることで、目を酷使する現代人は、目の疲れやすい環境で生活しています。目の健康を考える際、アントシアニンは欠かせない成分といえます。

自然界で生き抜く

「ファイトケミカル(phytochemical)」という言葉を知っていますか。ファイトケミカルの"phyto"はギリシャ語で植物、"chemical"は化学成分という意味から、「植物由来の化学成分」となります。

植物は自力で移動することができず、過酷な環境で生きていかなければならないため、動物とは異なる自己防衛能力を身につけました。強い紫外線や風雨にさらされても、抗酸化力や抗菌力など自らを守る機能をもっています。昆虫や動物から逃げられない植物は、独特な臭いを出して近づけさせない、食べてもおいしくなさそうな色や味(辛味や苦味など)の成分をつくることで食べられないようにします。植物が身を守るために作り出した色素や香り・辛み・苦みなどに含まれる機能性成分がファイトケミカルです。「第7の栄養索」と呼ばれ、生きる上で必要な栄養素ではなく、欠乏症などは起こさないが、さまざまな病気の治療や予防する効果が期待されています。

アントシアニンはファイトケミカルの1つで、なかでも注目すべき働きは抗酸化力です。私たち生物は、金属がさびるのと同じように酸化してしまいます。酸化とはものが酸索と結びつくことです。とくに酸化力の強い酸素を活性酸素といい、これを取り除くこと、すなわち酸化を防ぐ抗酸化力は、生命を若々しく維持することで注目を集めています。酸化は、さまざまな病気や老化の原因とされ、生活習慣病やがん・認知症などとも密接な因果関係があるといわれています。これらの疾患に対してビタミンやミネラルとともに、ファイトケミカルを上手に摂り入れることにより、予防に役立つと期待されています。私たちは、ファイトケミカルを体内で作り出すことはできません。しかしそれらを含んだ野菜や果物を摂取することで、ファイトケミカルを体内に摂り入れ、抗酸化力や免疫力を上昇させ、生活習慣病やガンの予防に活用できます。また、鮮やかな色や特有の香りを含む野菜や果物は、視覚や嗅覚からも私たちを楽しませ、苦みや渋み、辛み成分などは深みのある味わいを生み出します。

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