2012年に弱冠16歳で本県初の囲碁の女流プロ棋士になった木部夏生さん。日本棋院の院生としてプロヘの道を歩み始めた小学4年生の時、1型糖尿病を発症した。以降、体調を管理しながら厳しいプロの世界で戦い続け、今年3月には勝ち星対象棋戦通算30勝を挙げて二段に昇段した。日本糖尿病協会のインスリンメンターに昨年就任し、病気がハンディとならないことを自身の経験を通して、患者とその家族らに伝えている。
病を知り管理して
第一線で戦い抜く
知識しっかり持って
―プロヘの登竜門となる院生になった小学4年生。新しい一歩を踏み出したと同時に1型糖尿病の発症が発覚した。いち早く異変に気付いたのは母親の亜紀さん(45)だった。
立っていられないほどのだるさを惑じたのが始まりでした。好きなご飯をいくら食べても太らずにかえって痩せるようになり、1型糖尿病の症状を疑った母が、すぐに病院へ連れて行ってくれました。入院時の血糖値は556でとても異常な数値。今、振り返るとぞっとします。病院へ行くのが1、2週間遅れたら、どうなっていたか分かりません。母が深刻な顔を見せず病気のことを説明してくれたので、私も安心して病気と向き合えました。様子をしっかり見てくれていた母に惑謝しています。同じ糖尿病でも生活習慣病として知られる2型糖尿病と違って、1型糖尿病は子供や若い人でも発症する可能性があるので、知識をしっかり持ってほしいと思います。
対局中 小まめに確認
―1型糖尿病の患者は自分で血糖値を測り、常に携帯しているインスリンを必要な量、注射しなくてはならない。食べ過ぎや運動不足が原因となる2型糖尿病と異なり、食事に特別な制限はない。
注射は基礎インスリン1回と毎食後の3回に加えて、ジュースやお菓子を飲食した後に打っています。最近は器具が発達しているので楽になっています。例えば、注射針の太さも0.23ミリと細く、痛みはほとんどありません。注射器もペン型で携帯しやすく、いろいろなデザインがあります。常に持ち歩くものなので、おしゃれに気を使っている人もいるようです。
適切な量を食べて、きちんと注射で管理していれば、何を食べてもいいのですが、母は「病気だから食事に気を使うのではなく、太ったりせずにちゃんと栄養が取れるように」と意識して料理を作ってくれます。私は血糖値を管理するため、めん類や米などの炭水化物の摂取量をいつも考えながら食べています。
―糖分は脳の活動になくてはならないエネルギー源。頭を常にフル回転させる対局中は、特に血糖値のコントロールが重要となる。
緊張してアドレナリンが出ると、インスリンの働きが弱まるので注意しています。血糖値は通常1日8回ほど測っているのですが、対局中は高めの血糖値が理想なので、いつも20回ほどチェックしています。血糖値の管理をしっかりすれば、健常者と全く変わらない生活を送れるということを多くの人に知ってもらいたいです。
目標を諦めないで
―日本糖尿病協会のインスリンメンターは、講演会やサマーキャンプなどのイベントを通して、同じ病気と闘う人々の悩みに耳を傾け、自身の体験談を語って患者とその家族を勇気づけている。
これまで2回、シンポジウムに参加しました。患者さんや医療関係者に自分の体験を紹介しました。1型糖尿病の発症のピークは多感な時期に当たる10代です。発症して将来に不安を感じる中高生に「病気になったからといって、目標としたものを諦めないで」と伝えたいです。エアロビック日本代表の大村詠一さんや阪神タイガースの岩田稔さんら患者さんで活躍している方々はたくさんいます。昔は就職の内定取り消しなど病気への偏見があったりしたので、病気を隠しながら生活している人もいます。もっと理解が深まって、患者さんも生きやすい社会になればと思っています。
―プロ5年目の今、実力のある新人に負けないよう日々の努力を怠らない。
対局後の検討が一番勉強になります。研究会で週3回、練習碁を打っています。若手や勉強している人と対局するといい刺激になっています。今まで以上に努力して、女流棋戦でトップの棋士と戦えるようになるのが夢です。最終的には国際戦で戦えるような棋士になりたいと思っています。