ネギ・ニンニク・ニラなどのネギ科植物特有の匂い成分が「硫化アリル」。ファイトケミカルの1つでさまざまな生理機能があります。その代表として知られているアリシンは、変化しやすい物質ですが、ビタミンB1と結びつくと安定し、その効力を持観させる働きがあります。ここでは、硫化アリルの働きや、利用方法について紹介します。
執筆者略歴
あやべ・そのこ 高崎健康福社大学健康福祉学部健康栄養学科教授。専門は調理科学、博士(学術)。
お茶の水女子大学家政学部食物学科卒、同大学院人間文化研究科修了。1999年群馬女子短期大学助教授、2002年から高崎健康福社大学助教授を経て現職。
硫化アリルの機能性
①解毒作用:血液に入った毒素は、肝臓で有毒な脂溶性物質から水溶性物質に変換されて体外へ排出されます。硫化アリルは、この反応を進めるグルタチオンS転移酵素の活性を高め、肝細胞の解毒作用を助けるデトックス作用(図2)があります。がん阻止物質またはがん抑制物質として作用します。
②抗菌・静菌作用:硫化アリルは、ジフテリア菌・結核菌・赤痢菌ブドウ球菌・大腸菌などに対して静菌作用があります。これは、ネギ科植物が侵入者に対抗するための防御機能と考えられています。
③血液凝固抑制作用:硫化アリルには、血液凝固作用を遅らせる働きがあり、血液をサラサラにして血栓を予防する効能があります。したがって、動脈硬化や高血圧、脳梗塞などの予防にも役立つと考えられています。
④抗酸化性:体内で活性酸素やペルオキシラジカルなどの消去に関与する働きがあり、がんの予防に効果があります。
⑤血中コレステロール低下作用:コレステロールの合成抑制と脂肪酸の合成を抑制してコレステロールを低下させることが報告されており、動脈硬化の予防が期待できます。
⑥消化吸収:硫化アリル特有の強い匂いは、食欲増進とともに、インスリンや胃液の分泌を促し、消化吸収を高めます。
⑦末梢血行善作用:血行を良くする働きがあり、体を温めて、発汗などの代謝を促し、冷え性の改善や風邪の症状の緩和や不眠などに効果があります。また、温熱作用や消炎作用にも優れて、民間療法でも利用されています。
成分の変化
硫化アリルを多く含むネギ類の調理法としては、①生のままで刻んだり、すりおろしたりする②炒めたり、煮たりなど加熱調理する③醤油やアルコールや油に漬け込む、などの方法があります。
生のまま食べる場合、たとえばニンニクをすりおろした時は、アリインがアリイナーゼの作用を受けて直ちにアリシンが生成されます。その後に加熱調理するとアリシンが減少するので、アリシンの効果を期待する場合は、生のままで食べる方がいいことになります。しかし、生では辛く、刺激が強いので、ネギなどは水にさらすことで、辛みを和らげることができます。この時、長く水にさらすと、硫化アリルが溶出してその効力が薄れるので注意が必要です。また、生のままで刻んで、1時間くらいおくと、酵素の働きで薬効成分が増え、熱に強い物質に変わるので、加熱調理の際は早めに切っておいて、空気に触れる時間を長くするとよいでしょう。
旬の時期のネギ類は、加熱することで、辛み成分が揮発して、もともと含有している甘みを強く感じるようになります。鍋や汁物などは、溶出した成分も一緒にとれるので、理にかなった調理法といえます。食材の組み合わせでは、ビタミンB1を多く含む豚肉やうなぎ・カモ肉・レバーなどを使うと効果的です。
硫化アリルは、ニンニク・タマネギ・ネギなどに多く含まれ、さまざまな機能がありますが、剌激も強い物質です。生で過剰摂取すると、胃壁を刺激して腹痛を起こしたり、貧血の原因になったりします。胃が弱っている時は、摂取量を少なめにし、加熱するなど、食べ方にも気をつけましょう。