シリーズ からだ元気

子どもの頃、ほうれん草の缶詰を食べるとパワーアップして、悪者をやっつけてくれる「ポパイ」というアニメがありました。懐かしく思い出される方もいらっしゃることでしょう。アメリカの大手缶詰業者が消費拡大を狙って創作したものだそうです。しかし、そこには、ほうれん草が栄養満点にもかかわらず、子どもたちの嫌いな野菜の一つであったことから、「ほうれん草を食べると強くなれるよ。しっかり食べようね」という子どもたちの健康を願うメッセージが込められていたように思います。


執筆者略歴 かさはら・よしこ 高知県立高知女子大学家政学科卒。徳島大学大学院修了。長年、管理栄養士・栄養士養成課程で敬べんをとる。桐生大学教授を経て2014年度から山形県立米沢栄養大学に在職。専門は栄養敦育。管理栄養士。保健学博士・日本コーチ協会メディカルコーチ。


元気な暮らしに役立つ栄養素のお話…笠原賀子 NPO法人ヘルス・コミュニケーションズ理事長 パワーアップで健康家族
緑黄色野菜の王様
「ほうれん草」

伝来と生産

ほうれん草(菠薐草)には、菠薐つまり昔のペルシャ(今のイラン)から、ヨーロッパへ伝わった丸く厚い早い葉の西洋種と、シルクロードから中国を経て日本に伝わったギザギザで薄い葉の甘みが強い東洋種があります。最近は、両方をかけあわせて作った新しい品種もあります。

首都圏に近い県で多く作られていて、群馬県は全国第3位の生産量(野菜生産出荷統計)を誇っています。主に、県内の平坦地から中山間地まで幅広く栽培されており、標高差を生かすことで、年間を通じて出荷されています。

栄養満点

ほうれん草には、鉄・カリウムなどのミネラル類や、各種ビタミン類・食物繊維等、さまざまな栄養素が豊富に含まれています(表1)。

ご存じの通り、鉄は貧血予防に有効ですが、野菜に含まれる非ヘム鉄より、魚類の血合いいや肉類に含まれるヘム鉄のほうが吸収されやすいことが知られています。しかし、ほうれん草は優れものです。それは、鉄以外に、葉酸やビタミンCを豊富に含んでいて、鉄の吸収を促進し吸収率を高めるからです。葉酸そのものも赤血球の成熟に関与して貧血予防に役立ち、さらに、胎児の健全な発育を促します。

ここで、貧血予防のために、しばしば食べられるレバーとほうれん草の栄養索品をエネルギー100kcalあたりに換算して比較(表2) してみましょう。いかがでしょうか。ほうれん草には、牛レバーにも劣らない豊富な栄養素が含まれています。しかも、レバーは、さまざまな有害物質が蓄積される臓器でもあります。図1に鉄分の多い食品をしめしています。1つの食品に偏らず、さまざまな食品を組み合わせて食べることが、健康の維持増進には大切です。

さらに、ビタミン類は、のどの粘膜を丈夫にして、風邪の予防にも役立ちます。特に、β‐カロテンは、その抗酸化作用により、がん予防や肌の老化を防ぐ美容効果があります。

また、ほうれん草には、体内に蓄梢されたナトリウム(塩分)の排せつを促し、高血圧を予防するカリウムや、便秘を改善したり、血糖値を下げたり、コレステロールを体外に排せつする食物繊維が多く含まれています。

調理と効果的な食べ方

ほうれん草は、現在は一年中出回っており、サラダほうれん草のように、生食できるアク(渋味・苦味)の少ない、ほうれん草も出てきましたが、ほうれん草の旬は冬。寒い時期に根っこの赤い部分に「あまみ」成分が蓄えられ、おいしさを増します。

このアクの成分はシュウ酸で、体内でカルシウムと結合して、腎臓や尿路にシュウ酸カルシウムの結石を引き起こすことがあります。シュウ酸は水に浴ける性質があるので、多量の水でゆでこぼすと良いでしょう。ゆでると嵩[かさ]が3/4程度に減りますが、大量に食べなければ大丈夫です。また、カルシウムを多く含む牛乳やチーズ、豆腐とあわせて食べることで、シュウ酸が体内に吸収されるのを抑えることができます。ほうれん草のクリームシチューやグラタン、ほうれん草の白あえなどは、ほうれん草と相性の良い料理です。

一方、ビタミンCは、夏のほうれん草より冬のほうれん草のほうが、約3倍も多く含まれています(表1)。ほうれん草に多く含まれるビタミンA (表1)は油とあわせると吸収率が高くなり、このビタミンCはビタミンEとあわせると抗酸化作用が高まります。この両者を兼ね備えた食材、つまり、油を含みビタミンEが多い食材は「ごま」です。「ほうれん草の胡麻あえ」には、先人の知恵が生きています。

妊産婦のサプリメント使用は要注意

ほうれん草に多いビタミンAと葉酸は、妊産婦の栄養に重要な役割を果たしています。

ビタミンAは体内で合成できませんが、胎児の発育にとって必須の因子です。ほうれん草100gあたり、350μgREA (レチノール活性当量)含まれています(表1) 。しかし、サプリメントを服用して一度に大量に摂取すると、耐容上限量(過剰摂取による健康障害の回避を目的として定められた値)2,700μgRAEを超えてしまいます。これは、ほうれん草を毎日約800g (2.6束程)も食べなければならない量になります。現実的ではない量ですから、過剰摂取の心配はありません。

一方、葉酸は、妊婦の貧血や、胎児の神経管閉塞障害の予防のため、妊娠前及び初期に葉酸の補給(成人女性の倍の量480μg)が勧められています(表3)。これは、ほうれん草を約230g (0.8束程) 食べれば得られる量です。

いずれにしろ、食事からの摂取には問題がありませんが、大切な栄養素だからといって、必要以上に摂取することは控えましょう。これらのサプリメントを利用する場合には、医師や管理栄養士の指導を受けてください。

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