教えて!ドクター

腎臓はおしっこを作る臓器として知られていますが、他にも生命維持のための大切な役割があります。何らかの異常で機能が低下すると、塩分やタンパク質の摂取制限、さらには人工透析を余儀なくされ、QOL(生活の質)も大きく下がります。群馬大病院腎臓・リウマチ内科の広村桂樹診療教授は「最近は動脈硬化による腎硬化症が原因で人工透析になる高齢者が増えています。腎臓は自覚症状が出にくい臓器なので、日ごろから定期健診をして早い段階で治療を始めてほしい」と呼び掛けます。


動脈硬化で 人工透析!?
腎臓を守ろう

水分や電解質を調節する

腎臓の役割は大きく三つあります。①老廃物を排出する②水分や電解質(ナトリウムやカリウムなど)のバランスを調節し、酸を外に出して体を弱アルカリ性に保つ③赤血球を作るホルモンを分泌したり、強い骨を作るビタミンを活性化する―です。

機能が低下すると「むくみが出る」と思いがちですが、体の異変や不調が出るのは正常値の20%程度まで下がってから。腎臓の働きは尿検査でタンパク尿などを調べたり、血液検査で数値的に確認しないと分かりません。

8人に1人が慢性腎臓病

糖尿病腎症、腎硬化症(高血王性腎症)、慢性糸球体腎炎(主にIgA腎症)などの疾患を総称して慢性腎臓病と呼びます。原因はそれぞれ異なりますが、いずれも「タンパク尿など尿の異常」「腎臓のろ過能力(糸球体ろ過値)が正常の60%未満」の一方(または両方)が3カ月以上続いている状態で、腎臓の機能が低下、または低下するリスクが高くなっています。

慢性腎臓病の患者数は約1300万人、成人の8人に1人が「透析予備軍」になる計算です。このうち治療を必要とする患者数は600万人に上ると推定され、新たな国民病といわれています。進行して腎不全になると老廃物や毒素、不要な水分などが排出できません。尿毒症を発症し、心不全、心膜炎、意識・精神障害、けいれん、肺水腫など全身に症状が出ます。慢性に進行した場合、機能の改善は困難となります。進行しないよう早い段階で見つけて生活習慣を改善したり、治療することが大切です。

動脈硬化から人工透析も

超高齢社会で増えているのが腎硬化症です。原因は動脈硬化。老化や生活習慣病で進行するため、高齢になってから人工透析を始める人も少なくありません。予防するには生活習慣を見直して高血圧症、脂質異常症や糖尿病などの危険因子を取り除くことです。動脈硬化が進むと腎機能が低下するとともに、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まります。動脈硬化から腎臓を守ることは、逆に命の危険があるこれらの病気の発症を抑えることにつながり、健康寿命の延伸も期待できます。

健康診断の結果は、慢性腎臓病の早期発見の重要な手がかりになります。尿検査は尿にタンパク質などがもれ出ていないかをチェックします。タンパク尿は水分摂取量などで変動しやすい傾向がありますが、結果が「+(プラス1)」以上の場合は医療機関を受診して調べてもらいましよう。また、血液検査の項目「血清クレアチニン値」や「推定GFR値」は腎臓の糸球体でろ過される血液量を調べる検査で、腎臓の働きを数値化して確認することができます。糖尿病の人は尿検査で「微量アルブミン尿」を定期的に調べると、腎臓の障害が早い段階で見つかります。まずは住民健診や職場健診を受けて腎臓の状態を知りましよう。

発行
上毛新聞社営業局「元気+らいふ」編集室
FAX.
027-254-9904