都内で生まれ育った本間優美さんは、趣味の登山や自給自足の生活への興味から片品村で自然とともに生きる道を選んだ。村地域おこし協力隊の一員として地域振興策に取り組みながら、担い手の少なくなった猟師として活躍している。尾瀬国立公園の貴重な生態系を守るために捕獲、駆除したシ力の命を無駄にせずに、環境問題に関心を持ってもらおうと野生動物の皮製品を製品化した。
自然に感謝して
命を無駄にしない
ストレスフリーの生活
―尾瀬にほとんど生息していなかったニホンジカは1990年代半ば以降、温暖化や高齢化による猟師の減少などによって数を増やしてきている。湿原を踏み荒らすほか、ミズバショウやニッコウキスゲなど特定の植物を好んで食べることから、尾瀬の生態系に回復不可能な影響を与える危険性がある。環境省や県などが適切な生息数に管理するため、捕獲や駆除を進めている。自然が好きで環境保護にも興味があった本間さんは、知人の勧めもあって2014年に片品村に移住した。東日本大震災をきっかけに自給自足の暮らしへの憧れから猟師になった。
今シーズンの狩猟期間(昨年11月15日~2月末)では、グループでニホンジカを約30頭、イノシシを10頭捕獲しました。最初に狩りへ出たのは3年前。当時はまだわな猟の免許しか持っていませんでした。猟銃の免許を取ったのは2年前で、それから銃を使って狩りをしてます。元々は“山ガール”。会社員時代は毎週のように北アルプスなどで登山をしていました。キャンプや野外の音楽フェスが好きで、アウトドアグッズを集めていくうちに、自然に興味を持ちました。いつも何かに追われている都内での生活と異なり、時間がゆっくり流れる片品はストレスフリーの場所。生まれも育ちも都内だったので、緑に囲まれた生活をするのは初めてでした。今では都内にいる家族が片品へ“帰省”するようになってスキーや尾瀬の観光を一緒にしています。
気持ちを切り替える
―猟銃を使った狩りはチームで進めていく。音を立てて動物を追い立てる勢子[せこ]と追い詰められた動物を仕留める射手の役割があり、本間さんは主に射手を務めている。鋭い牙を持つツキノワグマやイノシシなど危険な大型獣も時に獲物となる。ニホンジカも大きな角があるので油断できない。これらの“大物”を捕えるために使う「スラッグ弾」の射程は50~100メートルほどしかなく、いくつもの弾が散らばる散弾と異なり単発で当たりにくい。狙いを外せば、興奮した動物が突進して反撃するかもしれない。
イノシシの牙はペーパーナイフくらいの鋭さです。猛スピードで突進してくると非常に危険なので確実に仕留める必要があります。肉や皮を使うためには、頭や首を狙わなくてはいけません。それが難しいですね。昔、通っていた自然体験教室で野生動物の解体を経験していたので覚悟はあったのですが、最初の狩りでは「かわいそう」という気持ちが生まれました。今でも感じることもありますが、狩りの時はできるだけ気持ちを切り替えるようにしています。それだけに命を無駄にしたくない思いは強く持っています。
人とのつながりが宝
―東京電力福島第1原発事故後、県内でもニホンジカやイノシシなど野生鳥獣の出荷制限が続き、食肉として利用することが難しくなった。駆除や捕獲された野生動物の命を余すことなく利用しようと、破棄されていた皮で小銭入れやブックカバーなどを作っている。都内で営業職として働いていたフットワークを生かし、野生動物の皮をなめし加工してくれる工場や協力者を見つけ、商品化にこぎ着けた。
群馬県は内陸の県なので、山の恵みを名物にした方がいいと思い、商品化に挑戦しました。社会人として9年間働いていた経験が生きました。野生動物の皮は季節や個体によって大きさや厚みなどが変わってくるので、性質に合わせた商品を作りたいと思っています。プロでも難しい野生動物の皮の加工ですが、いろんな人が協力してくれるので助かっています。群馬に来てよかったことの一つは人とのつながりができたことですね。
全国各地の猟師と情報交換ができる「狩猟サミット」に毎年参加しています。県内では珍しい女性の猟師「狩りガール」と交流を深めています。刺激を受けるのと同時に、自分の取り組みが間違っていないと自信を深めています。シカ肉は鉄分が豊富で高タンパク低脂肪と、女性の健康にいい肉で、都市部でもジビエ料理として注目されています。いつか群馬産の肉が出荷できるようになることを願っています。