シリーズ からだ元気

卵は、ヒナがふ化するまでの間に必要とする栄養素が蓄えられています。そのため、非常に栄養価の高い食品として重視されています。卵黄には多量のたんばく質と脂肪のほかビタミンA、ビタミンD、鉄やリンなど、おもな栄養素のほとんどが含まれています。また、卵殻や卵白により外部からの物理的障害や生物的侵入などの防御機能を備えているため、常温でも長期的に保存することができる珍しい食品でもあります。今回は、卵の栄養について、あまり知られていない知識について解説します。


執筆者略歴 あらい・かつみ
日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部畜産学科卒。茨城大学大学院農学研究科資源生物科学専攻(修士課程)修了。イセファーム(株)で鶏卵の生産管理を経て、同社飯沼研究所で企画卵の研究開発や鶏および鶏卵の品質管理等に従事。2001年から桐生大学の前身である桐生短期大学着任。専門は食品学。


元気な暮らしに役立つ栄養素のお話…荒井勝己 桐生大学医療保健学部栄養学科准教授 栄養素のデパートで
バランスのよい食生活を
「卵」

不足している栄養素

ヒトなどの哺乳動物は、母体の中で必要な栄養素を胎児に送るため、母親が摂取する栄養が胎児の成長に大きな影響を与えます。しかし、卵生である鳥やは虫類などの仲間は、産卵後、外から栄養を得ずに、主に卵黄の栄養により成長しなければなりません。ヒナがふ化するまでに必要な栄養は、私たちにとっても必要なものであるという考えから、卵は「完全栄養食品」といわれるようになりました。実際に、たんばく質を構成するアミノ酸の中でも私たちの体の中で合成することができない必須アミノ酸を十分に含んでいる点やほとんどのビタミンやミネラルを含むことから卵を摂取していれば病気にならないといわれていた時代もあります。

では、不足している栄養素は本当にないのでしようか。実は、卵にはビタミンC(アスコルビン酸)がほとんど含まれていません。ビタミンには、油に溶けやすい性質の4種類(脂溶性ビタミン:ビタミンA、D、E、K)と水に溶けやすい性質の9種類(水溶性ビタミン:ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、C)が存在します。ビタミンは、生体内で合成されない、もしくは合成されたとしても必要十分量でないため、原則として食品から摂取する必要があります。

なぜ卵には含まれないのでしようか。それは、鳥は体内でビタミンCを合成することができるため、卵にビタミンCを含ませる必要がないからです。ほとんどの動物はグルコース(ブドウ糖)からビタミンCを合成することができます。しかし、ヒトを含めた霊長類やモルモットは、ビタミンCを合成することができないため、「ビタミン」として取り扱われています。ちなみに、卵と同様に、子牛が成長するために必要な栄養素を含む牛乳もビタミンCをほとんど含んでいません。これも牛が体内でビタミンCを合成することができるからです(牛乳100g当たりビタミンCは1mgに対し、人乳は5mg)。

ビタミンCは、体内における油脂やビタミンAなどの酸化防止やコラーゲンの合成、メラニンの合成抑制、鉄の還元による吸収促進などの働きがあります。ビタミンCは、果物や野菜・いも類などに多く含まれる栄養素なので、植物性食品を一緒にとることで不足分を十分補うことができます。

卵黄の色と栄養

■卵黄の違い

今の子どもたちに割った生卵の絵を描いてもらうと、卵黄の色は黄色ではなく橙色で塗られています。いつの頃からか卵黄ではなく「卵橙[らんとう]」と表現した方がよいのではないかというぐらい卵黄の色は変わってきました。私が卵の生産に関わっていた20年前は、普通の卵はまだ黄色い卵黄でした。

しかしこの頃、さまざまな栄養成分を飼料に混ぜて卵に移行させ、付加価値を付けて販売されていた卵(特殊卵あるいは栄養強化卵)の卵黄の色は橙色でした。講義の中で学生に卵黄の色と栄養の関係について質問をすると多くの学生が、橙色の卵のほうの栄養価が高いと解答します。これは誤解であり、卵黄の色と栄養は関係ありません。

前述のように、普通の卵と特殊卵との差別化で色分けをしていた頃は、橙色の卵黄は特殊成分が含まれている分、栄養に優れていると答えても間違いありませんでした。しかし、今では普通に売られている卵も橙色であり、卵黄の色を決めている色素成分が栄養に関係していることはありません。卵黄に含まれる色素の大部分はカロテノイド色素で、ルテインやゼアキサンチンなど黄色い色素が多く、体内で合成することができません。

これらは配合飼料中のとうもろこしやアルファルファに含まれ、卵黄に移行します。もし、カロテノイド色素を含まない飼料を与えれば、黄色みの非常に薄い卵黄になります。現在は、橙色の方がよりおいしく見えるという考えから、天然の赤みの強いカロテノイドなどの色素を飼料に配合することで、卵黄の色の調節を行っています。

烏骨鶏の卵や有精卵は栄養価が高いのか?

よく鳥骨鶏やホロホロ鳥などの珍しい鳥の卵や有精卵(一般に売られている卵のほとんどは無精卵)が普通の鶏の卵に比べて高く売られていますが、栄養成分的な違いはあるのかという質問をよく受けます。実際はどうなのかというと、成分的にはほとんど違いはあません。前述の通り、卵はヒナがふ化するために必要な栄養をすべて含んでいるため、鳥骨鶏の卵や有精卵もほとんど同じ成分が含まれています。たとえば鳥骨鶏の卵の価格が高くなる理由として、産卵数が少ない(普通の鶏は、年間250~300個くらい生むのに対して、鳥骨鶏は50~60個ほど)、飼養羽数が少ない、高価な飼料を与えることなど鶏の卵を生産するのに比べて手間がかかっていることが原因といえます。

発行
上毛新聞社営業局「元気+らいふ」編集室
FAX.
027-254-9904