「髪は女性の命」という言葉があるように女性にとって頭髪は大切なもの。しかし、がん治療や脱毛症、加齢による薄毛など髪のトラブルに悩みを抱える女性も少なくない。角田真住さんは多発性脱毛症によって髪を失ったことをきっかけにヘッドスカーフ「リノレア」を考案。インターネット上で出資を募るクラウドファンディングを利用して昨年起業した。コンプレックスを前向きな力に変え、同じ悩みを抱える女性に明るくファッションを楽しんでもらおうと活動を広げている。
頭髪の悩み
スカーフにかえ起業
友人の声で前向きに
―次女を出産した2014年、頭髪が抜ける多発性脱毛症を発症した。脱毛症はストレスやホルモンバランスの乱れ、栄養の偏った食事、細菌の感染、自己免疫の暴走など、さまざまな原因が挙げられるが、角田さんが発症した詳しい原因は不明で、明確な治療法もなかった。先が見えない不安と突然の変化に戸惑う中、たまたまスカーフを頭に巻いて外出したのが転機となった。
最初はすれ違う人の視線が気になり、外出を避けていました。みんな私の頭を見ているような気がして、できるだけ気付かれないようにへアバンドなどで頭を隠していました。私の髪のせいで家族や友達に気を遣わせてしまったのもつらかったです。そんな時、頭に巻いたスカーフを見た友人が「すてき。おしやれだね」と言ってくれたのがとてもうれしかった。それまでのふさぎがちだった気分が変わった瞬間でした。
「織物の街」で起業
―病気でもおしゃれすることで気持ちが前向きになった経験を、脱毛で悩む女性と共有したいと、ヘッドスカーフを商品化することを決めた。「群馬イノベーションスクール」に通って起業するノウハウを学び、資金はクラウドファンディングで集めた。
クラウドファンディングでは、たくさんの応援メッセージをもらい、励みになりました。コンプレックスを感じ、悩みを隠している女性は多いと思います。
―肌に優しい県産シルクを裏地に、耐久性の高いポリエステルを表地に採用した。2つの素材を合わせて製品化するには高い技術が必要だったため、「織物の街」桐生で16年に起業した。目指したのは普段着感覚で身に着けられるスカーフ。コーディネートしやすい色や柄を選んで商品化した。
シルクと人間の肌をつくるアミノ酸は、ほぼ同じような構成といわれています。防腐剤であるホルマリンを使用していないので肌への負担がより少ないと、イノベーションスクールの仲間に教えてもらい県産シルクを使うことにしました。アパレル業界の経験がなく、手探りの状態で進んでいた私にアドバイスをくれたのは、桐生の木島縫製の社長さんでした。きちんと仕様書を書いて製品化を依頼しなくてはならないのに、身振り手振りで説明する私の思いを形にしてくれました。
「まごわやさしい」
―起業し、事業を軌道に乗せるために2児の子育てをしながら、販路の拡大に駆け回っている。脱毛で悩む女性の気持ちを広く伝えようと起業家セミナーなどで講演をした。バランスを考えた食事が熱心な活動を支えているという。
脱毛症になってから食事に気を付けるようになりました。栄養バランスの良い食生活を送るために「まごわやさしい」という言葉を参考に献立を決めています。ま(豆類)ご(ゴマなどの種実類)わ(わかめなどの海草類)や(野菜類)さ(魚介類)し(しいたけなどのキノコ類)い(いも類)をバランスよく摂取することで体全体の調子もよくなったように感じます。
病気になって同じ症状の女性の気持ちを深く理解できました。東日本大震災後、被災地で活躍するボランティアの姿を見て、私も何か人のために活動したいとずっと思っていました。今こうして活動しているのは病気になったからです。この経験は神様の贈り物かもしれません。