農業を担う若手が少なくなり、高齢化する農村。維持できなくなった農地に代わって住宅地が開発されるー方、取り残されるように古い住宅が空き家となって点在している。結婚を機に太田に移住した中島沙織さんは地域コミュニティーの原点である農業社会を再構築しようと、若い新規就農者が少ない地域の中で、子育てをしながら畑を耕し、昔ながらの風景を守り続けている。
農業の力で
地域の絆強める
野性味と栄養豊か
―カボチャやピーマンなどのなじみ深い野菜のほかにカリーノケールやトレビス、ズッキーニといったイタリア野菜を栽培している。瑠那さん(13)と大河君(9)の育ち盛りの2人の子どもを持つ母として、安全で安心できる野菜づくりを心掛けている。
手間は掛かりますが、無農薬で野菜を育てています。イタリア野菜はなじみのない人もいると思いますが、彩りのいいトレビスはよくサラダに使われています。イタリア野菜は輸入されたものが多いですが、農薬に気を使い国産品を求める人もいます。
最近の野菜は、例えばブルームといった白い粉やいぼが出ないキュウリなど、見た目が良くなるように品種改良されたものが多くなっています。原種に近いイタリア野菜は、野性味があるのが魅力です。栄養価が高くて味に特徴があります。トレビスは抗酸化作用があるといわれています。カリーノケールは癖がなく、みそ汁に入れてもおいしいです。少し苦みのあるトレビスはチャーハンに入れるといいアクセントになります。
住民の拠点つくる
―地域資源を活用した町おこしと住民の居場所づくりに取り組む「OTA FACTORY[オオタ・ファクトリー]」を昨年9月、近くに住む元市職員の田部井光代さん(54)、元教諭でカウンセラーの針金由美子さん(65)ら地域の有志約10人が中心となって結成。地域の人々と歴史、文化、自然をつなぐ拠点を田部井さん方の敷地内に整備した。農業体験や料理教室などさまざまなイベントを企画。子どもから80代までの30人ほどのメンバーが、それぞれ興味を持ったイベントに参加して交流を深めている。今夏には地域の農産物を拠点内で加工、販売する予定だ。
昨年、「夏休みチャレンジ大会」という子ども向けの料理教室を開いたのが設立のきっかけです。食べものを通して笑顔になった地域の人たちを見て、みんなのやりたいこと、できること、やれそうなことに挑戦するコミュニティーをつくりたいと結成しました。地産地消と地域の雇用の場をつくることが目的で、現在2人のメンバーと一緒に3人で私の畑で働いています。1人ではできることが限られているので、仲間ができて心強いです。
昔からの風景守る
―東京都八王子市の住宅街で生まれ育った。結婚前まで、ほとんど農業と接点がなかったが、夫の康宏さん(35)の青果仲卸会社を手伝ううちに農業への関心が高まり、関連の農業会社に移り、2012年に独立した。最初は20アールほどの小さな畑でスタート。高齢化や後継者不足によって休耕地になってしまう農地を引き継ぎ、今は約6ヘクタールの田畑を管理している。
就農してから地域の人々との接点が増えました。農家のお年寄りから教わることも多いです。農業は昔から地域のコミュニティーの中心を担ってきたと思います。今、この辺りでトラクターを走らせている若い人は、とても少なくなりました。日本の食糧自給率はカロリーベースで40%ほど。自分で食べるものは自分で作る時代がそのうち訪れると思ったのが、就農のきっかけの一つです。休耕地が宅地化されていますが、宅地から農地に戻すのはとても難しいこと。今ある農地を維持してこの土地の風景を守っていくことは、将来にとって大切なことだと思っています。