シリーズ からだ元気

野菜は、その種類が極めて多く、葉や根などさまざまな部位を食しているため、栄養成分をー概に論じることはできません。しかし、栄養成分として三大栄養素である糖質やたんぱく質、脂質などはほとんど含みませんが、食物繊維、ビタミン、ミネラルなど私たちの身体の調子を整える重要な成分を豊富に含んでいます。今回は、野菜の定義や種類などについて解説し、欧州では“奇跡の野菜”として食べられているビーツの特性について説明します。


執筆者略歴 あらい・かつみ
日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部畜産学科卒。茨城大学大学院農学研究科資源生物科学専攻(修士課程)修了。イセファーム(株)で鶏卵の生産管理を経て、同社飯沼研究所で企画卵の研究開発や鶏および鶏卵の品質管理等に従事。2001年から桐生大学の前身である桐生短期大学着任。専門は食品学。


元気な暮らしに役立つ栄養素のお話…荒井勝己 桐生大学医療保健学部栄養学科准教授 野菜類・ビーツ

野菜の定義

野菜類は、「副食として利用される草本性植物の総称」として定義されています。草本性植物とは、太く堅い幹を持たず樹木のように大きくならない植物を指します。よくイチゴやスイカ、メロンは野菜なのか果物なのかという質問を受けます。園芸分野ではイチゴやスイカは野菜として扱われ、青果市場ではこれらは果物として取り扱っています。また、日本食品標準成分表2015年版(七訂)(以下、食品成分表)でも「果実類」に分類されていま寸。

農林水産省では野菜と果物(果実)の分類について、はっきりした定義はないと答えています。あるものを野菜に分類するか果物に分類するかは国によっても違い、生産分野においては、一般的に次の特性を持つ植物が野菜とされています。

  1. 田畑に栽培されること(栽培されていない山菜などは野菜と区別することが多い)
  2. 副食物であること
  3. 加工を前提としないこと(こんにやくのような加工を前提とするものは野菜としていない。漬物のように原料形質がはっきり残っているものや家庭における簡易加工は加工に含まない)
  4. 草本性であること

しかし、どの定義も確固たるものではなく、農林水産省では、果実を、生産や出荷の統計を取る上で果樹として分類しています。この果樹は、木本性などの永年作物のことをいいます。なお、イチゴ、スイカ、メロンなどは野菜に分類されますが、果実的な利用をすることから「果実的野菜」として扱っています。

以前は自生する野草を山菜、栽培によって生産されるものを蔬菜(そさい)と区別していました。蔬菜とは、明治時代に入ってから栽培作物を指して用いられるようになった語でしたが、山菜なども栽培されるようになった結果、これらの厳密な区別が困難になり、現在ではこれらを区別することなく野菜と称しています。

野菜の種類と分類

野菜にはさまざまな種類のものがあり、食品成分表には326種も記載されています。それらを分類するにはいくつかの方法が用いられています。例えば、ナス科(ナス、トマト、ジャガイモなど)、アブラナ科(ハクサイ、キャベツ、ブロッコリーなど)、ウリ科(キュウリ、カボチャ、スイカなど)など自然分類による植物学上の科による分類(コラム参照)、夏野菜(キュウリ、ピーマン、インゲンなど)、冬野菜(ダイコン、ネギ、ホウレンソウなど)のように収穫の時期による分類、生鮮野菜(水分が多く、ビタミンC、カロテンやミネラルを多く含む)、豆類野菜(たんぱく質を多く含む)、デンプン質野菜(イモ、トウモロコシなど)など、栄養的な分類などがあります。

野菜は果物と異なり、果実だけではなく葉や根などさまざまな部位を食しています。栄養成分は、どの部位を利用しているかにより大きく異なるため、利用部位による分類が最もわかりやすい分け方ではないでしょうか。この分け方では、葉の部分を利用する葉菜、果実の部分を利用する果菜、茎の部分を利用する茎業、根の部分を利用する根菜、そして花や蕾[つぼみ]の部分を利用する花菜の5つに分類しています(表1)

また、一般には緑色や黄色・赤色などの色の濃い野菜のことを「緑黄色野菜」といわれていますが、ただ色がついていればよいわけではありません。原則として「可食部100g当たりカロテン含有量が600マイクログラム(μg)以上の野菜」という基準が厚生労働省により決められています。ただし、例外としてトマトやピーマン、サヤインゲンなどは、可食部100g中のカロテン含有量が実際には600/kg未満であるものの、食べる回数や量が多いため、緑黄色野菜に分類されています。緑黄色野菜には多くのβ-カロテンが含まれていて、体内でビタミンAに変換されることから「プロビタミンA」とも呼ばれ、活性酸素を減らす抗酸化作用があります。緑黄色野菜にはカロテン類だけではなく、ビタミンCも比較的多く含み、ほかにも多くのビタミンやミネラルなどを豊富に含んでいます。

日本の野菜消費

厚生労働省が実施している国民健康・栄養調査(平成27年)によると、国民の一日一人当たりの成人(20歳以上)の野菜摂取量の平均値は緑黄色野菜で男性96.8g、女性101.6g、その他の野菜類で男性202.6g、女性187.0g、総摂取量は男性299.4g、女性288.7g、(全体293.6g)と報告されています。厚生労働省が2000年(平成12年)3月に策定した野菜摂取目標量は一日当たり350gであり、国民健康・栄養調査の結果では、性および各年齢階級において摂取目標量を下回り、特に若年層の野菜摂取量の減少が目立つため、健康を維持する点からも野菜摂取の増加が望まれています。

奇跡の野菜  ビーツとは 

今月の“県産食材レシピ”で取り上げられているビーツ(beet)は、地中海沿岸が原産のヒユ科の根菜で、ロシアの伝統料理であるボルシチによく使われています。名前の由来は、ケルト語で赤を意味する「bette」からきていて、火のように鮮やかな赤色であるため、日本では火始菜(かえんさい)とも呼ばれています。日本では、身近で見かける野菜ではありませんが、イギリスでは、ビーツは体によい野菜として常識になっています。

ビーツには、水溶性ビタミンの1つである葉酸が豊富に含まれていて、ビーツ1個(約200g)で厚生労働省が推奨している240μg近くの量を取ることができます。葉酸は赤血球の形成を助ける働きがあり、胎児の正常な発育に寄与することから妊婦に不可欠な栄養素として知られています。ビーツはミネラルがバランス良く含まれていて、とくにカリウムも豊富なため、体内の余分なナトリウム(塩分)を尿とともに排池してくれることで高血圧の予防改善に有効です。

近年、ビーツを食すことで注目されているのが体内で一酸化窒素(NO)が増加することです。ビーツには硝酸塩(NO3)という成分が多く含まれており、体内で一酸化窒素に変化します。この一酸化窒素は、血液の流れをよくし、脳卒中や心臓病などを予防する働きがあります。ビーツにはベタシアニンというポリフェノールの一種が含まれています。ポリフェノールの中でも、とりわけ強い抗酸化作用を持っているベタシアニンは、体内の活性酸素を取り除く働きがあり、老化を防ぐ効果が期待されます。他にもアミノ酸の一種でうま味や甘味に関与するべタイン(肝機能強化、脂肪燃焼を促進)や消化吸収されないオリゴ糖であるラフィノース(ビフィズス菌などの腸内有用細菌の栄養素としてその増殖を促進)など私たちの健康に役立つ有効成分を含むため、今後注目すべき野菜といえるでしょう。

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