甘くて色彩鮮やか
有機農業に力注ぐ
標高500~700mの高原地帯にある高山村は、四方を1200m級の山々に囲まれ、昼夜の寒暖の差が大きく、さまざまな種類の野菜が栽培されている。
最近、注目され始めたビーツもその一つ。根菜類でカブに似た形をしているが、赤や黄色などの鮮やかな色彩と独特の甘みが特徴で、生で食べると大根、火を通すとカブのような食感に人気がある。
平形さんのビーツ畑は、道の駅「中山盆地」の目と鼻の先にある。南向きの傾斜地で、収穫期を迎えて、緑色の葉に覆われている。畑に入った平形さんが、茎の部分を左手でつかんで力強く引き抜くと、土の中から赤く大きな塊が顔を出した。「まずまずの出来です」。日焼けした顔に笑みがこぼれた。
会社勤め経て就農
平形さんがビーツ栽培を始めたのは6年前。脱サラで就農してから毎年、地元特産の高山きゅうりやトウモロコシなどと同様に種から育てている。
大学を卒業後、カナダで有機穀物を取り扱う会社に勤めていた平形さんは、有機農業に興味を持ち、帰郷すると村内のNPO法人の研究員として、環境や地域振興などをテーマに活動。やがて夫婦で有機農園「Kimidori farm&kitchen(キミドリ・ファーム&キッチン)」を立ち上げた。
「農家の次男だったので、農業を継ぐつもりは全くなく、大学では国際学を専攻しました。でも、人類学や環境学を学ぶうちに、いつしか人や環境に優しい農業に引かれていったのかもしれません」と振り返る。ビーツについては「カナダでは普通に食べているので、抵抗なく栽培に取り組めました」と話す。
加工品も手掛ける
ビーツの栽培面積は30アールで、露地栽培を貫いている。春から秋まで段階的に種まきを行い、6月から11月まで収穫作業が続く。うまさの追求、アレルギー疾患の予防、地球環境への配慮という観点から、栽培中は農薬や化成肥料を一切使用しない。
「手間ひまはかかりますが、消費者に安心して食べてもらえますし、野菜そのものの味も楽しめます」と平形さん。忙しい時には、ファームステイで訪れる“農業研修者”に、草むしりや種まきなどの作業を手伝ってもらっているという。
カナダで知り合った妻の佐和美さん(32)を中心に、6次産業化にも力を入れており、ビーツのチップスやケーキミックス、乾燥革、こんにゃくなどの加工品も手掛けている。最近はビーツを使ったパンやドレッシング、ジェラートなどを商品化する事業者が増えており、ビーツの魅力拡散に期待している。