日本一の高原野菜
夜明け前から収穫
浅間山麓の標高700~1400mに広がる日本一の夏秋キャベツの産地・嬬恋村は、収穫期を迎えて一年で最も活気づいている。夜明け前から農家の人たちが畑に繰り出す広域農道は、キャベツを積んだ農家のトラクターや輸送用の大型トラックが、エンジン音を響かせて走り回る。
石野さんも夫の時久さん(59)らとともに連日、午前4時から11時ごろまで収穫作業に汗を流す。「大変ですが、頑張ればその分、喜びも大きくなります」と石野さん。農業研修生2人が切り取ったキャベツを、品質確認しながら丁寧に段ボール箱に詰めていく。
鮮度を保つため、JAの予冷施設にいったん運び、その日のうちに全国各地へ配送される。「娘婿がトラクターで運搬してくれるので助かります」と笑顔を見せる。
作付け面積は12ヘクタール
村内ではキャベツを、愛着を込めて「玉菜(たまな)」と呼ぶ。植え付けは「玉菜植え」、収穫は「玉菜切り」と言い、栽培の中で特に大切な作業と位置づけている。
石野さんがキャベツの栽培に携わるようになったのは、時久さんの家に嫁いだ35年ほど前から。「農家育ちではなかったので当初は戸惑いもありましたが、農業に興味があったのですぐに慣れました」
栽培面積は徐々に拡大し、現在は約12ヘクタールに「やわらかキャベツ」や「高原キャベツ」など8品種を作付け。出荷作業は主に7月から10月までの4ヵ月間続けられる。
ぐんまちゃんをあしらった県産農畜産物の統一ロゴマークなどが印刷された専用の段ボール箱は、8玉入りを基本とし大玉や小玉はそれぞれ6玉と10玉入りにして出荷する。大きさや傷・病気などの品質チェックなど、箱詰めする際の選別は細心の注意を払う作業だ。「箱には生産者の名前も入っており、信用にかかわりますから」と石野さんは気を引き締める。
やわらかく甘みも
なだらかな傾斜地のキャベツ畑は、「黒ボク土」と言われる腐食に富んだ火山性の土壊で、高原野菜に適している。さらに、6~9月の平均気温も、キャベツの生育適温と同じ15~20度と恵まれている。加えて、昼夜の温度差と高原特有の朝露によって、やわらかく甘みのある自慢の“玉菜”に成長する。
「わが家ではほぼ毎日食べています」と石野さん。千切りにマヨネーズとしょうゆをかけ、生のまま食べるのが一番のお勧めだという。ほかにも他の野菜と一緒に炊めたり、みそ汁の具や漬物、かき揚げの天ぶらに使用したりと、食べ方は豊富だ。石野さんの家では、ジャガイモや特産の花豆(ベニバナインゲン)も生産しており、「おいしい高原野菜を多くの人に届けたい」と話している。