「少し動くだけで息が切れる」「階段を上ると息苦しい」「皆と同じような軽作業ができない」。長年の喫煙響慣によって肺が壊れると、慢性的に息が吐きにくい状態になります。「たばこ病」と呼ばれる慢性閉塞[へいそく]性肺疾患(COPD)で、かつては肺気腫、慢性気管支炎と呼ばれていました。群馬大医学部医学科の非常勤講師でプラーナクリニック(埼玉県深谷市)の副院長、須賀達夫さんは「たばこ病は徐々に悪化するので見過ごされがち。長引くせき、たん、息切れを放置しないで」と呼び掛けます。
長引くせき、息切れは
「たばこ病」!?
傷んだ肺は元に戻らない
肺は、呼吸によって酸素を体内に取り入れ、二酸化炭素を体外に除去する役割を担っています。酸素と二酸化炭素のガス交換を行う肺胞は、細かく枝分かれした気管支の先に付いています。空気が入ったブドウの房のような袋が3億個以上あります。
たばこの煙などに含まれる有害物質で肺胞が壊れたり、末梢[まっしょう]の細い気管支に炎症が慢性的に起こったりすると、肺の機能が衰えて吸った空気が吐き切れなくなります。これがCOPDで、喫煙が原因の9割を占めます。確定診断や重症度はスパイロメーター(呼吸機能検査)で1秒量(初めの1秒間に吐き出せる空気の量)を測定して判断します。
肺の機能は加齢に伴って衰えますが、喫煙はさらに老化を早めます。一度壊れた肺は元に戻りません。重症になると日常生活に支障が出るだけでなく、心臓に負担がかかって心不全になる危険も増します。
治療で「悪化させない」
治療は、現状の肺の性能を引き出して少しでも快適に生活できるよう、飲み薬や吸入薬を使います。薬はあくまで補助、悪化させないことが治療のゴール(目的)です。
何よりも大切なのは禁煙です。「苦しいので動かない」→「足腰の筋肉と一緒に、呼吸する時に使う筋肉も減り、さらに息苦しくなる」→「外に出なくなり、気持ちも滅入る」→「ますます動かなくなる」という負のスパイラルに陥らないよう、高タンパクの栄養を十分に取りながら体を動かしましよう。
ただし、頑張り過ぎると逆効果です。心臓に負担が掛からないよう、医師や理学療法士と相談して行うのが理想です。「気持ちよかった。これなら毎日続けられる」という程度の運動を目安にしてください。
最近、風邪ひきやすい?
せきや痰[たん]が続いて、風邪をひきやすくなったと感じても、たばこの害だと思う人はあまりいません。また、せんそくやアレルギー、逆流性食道炎などの症状にも似ていて、これらの疾患を複合的に持っている人もいるため、早期発見につながらないのが課題です。
たばこ病が原因で亡くなる人は今後さらに増えることが予測されます。生き生きと楽しく老後を過ごすためにも気になる症状は放置せず、禁煙を心掛けましょう。