牛の飼育からチーズの加工まで一貫して行う工房を開設するのが夫婦の夢だった。北海道出身の夫の俊樹さん(40)と苦労を重ねながら、古里の前橋市粘川町に工房を開いた。チーズに適した濃厚な牛乳を出すブラウン・スイス種3頭から始めたことから「Three Brown(スリーブラウン)」と名付けた店には「モッツァレラ」や「カチョカバロ」をはじめ、「フロマージュフレ」(商品名・ドリー)などナチュラルチーズが並ぶ。赤城山南麓の自然の香りが広がる優しい味を県内外に届けている。
食にこだわり
夢の続き歩む
顔の見えるチーズ
―朝7時の牛の乳搾りがー日の始まり。水曜と日曜の週2回の営業日に合わせて、牧場敷地内に設けた工房で絞り立ての牛乳を使ってチーズを作る。牛の世話からチーズの製造、販売までを基本的に夫婦2人で行っている。多忙な日々を支えるのは「顔の見えるチーズ」を届けたいとの思いだ。
牛を飼ってチーズを作ることは夫と私の長年の夢でした。夫とは農業高校の時に出会い、働きながら資金をためて、結婚と同時に地元の前橋市精白川町へ戻りました。民家に近い住環境よりも牛に何かあってもすぐ世話ができる環境が理想だと、実家の豚舎があった人家が少なく緑豊かな中之沢に移住して、一から牧場とチーズ工房を立ち上げました。作った人の顔が分かることは安心につながります。地元でチーズ本来の味を広めていきたいと思っています。
―1頭1頭を大切に育てたいと、牧場では少数の牛を飼っている。現在7頭の牛が放牧地の中で青々と茂る草を食べて、ゆったりと暮らしている。
酷農家の恩師が言った「牛においしい餌を食べさせなさい」という教えは、今でも大切に守っています。遺伝子組み換え農作物を使っていない飼料を与えています。自然の中で育った牛の乳は季節によって味が変わります。チーズも一年中、同じ味ではありません。私は若草を食べている頃の味が好きです。季節によって変わる味を楽しんでもらいたいです。
細く長く続けたい
―牧場を始める直前、8日後に北海道から牛が来ることが決まっていた中、東日本大震災が起きた。不安の中、牧場の開設準備を進めるうちに疲労が重なったが、ホームページやブログで牛の状態とチーズ作りの状況を発信し続けた。協力してくれた家族や仲間の温かさが励みとなり、夢が実現した。
チーズの販売を始めるまでの2年間は必死でした。牛舎の建設などを家族や仲間の手を昔りながら手作業で進めてきました。将来のことを考えるとマイナス面ばかり考えた時期もありましたが、高い壁だと思っていたことでも小さなハードルを乗り越えていくうちに夢をかなえることができました。「本気でするから誰かが助けてくれる」という言葉があるのですが、その通りだと思いました。私たちの夢を共有して協力してくれた人たちへの感謝の思いでいっばいです。
―牛の世話は休みがない重労働。長年の夢だった牧場とチーズ作りをこれからもずっと続けていくために「健康が第ー」との思いを強くした。中学3年から小学1年の育ちざかりの子供3人を育てる母として、体をつくる食へのこだわりを持っている。
両親が有機野菜を育てているので、昔から食べ物には関心がありました。特に菜種油やしょうゆなど、調味料や油には気を配って取り寄せています。いい調味料を使えば、素材の味が引き立ち、シンプルでおいしい料理が作れます。衣食住全てぜいたくすることは難しくても、めりはりをつけて生活すればより豊かに暮らせます。安心できる食材や調味料は一般的なものよりも高価であることも多いですが、私はこの仕事を長く続けていきたいので、健康を支える食に投資するようにしています。
“赤城の観光大使”
―自然や農業に触れるグリーンツーリズムを通じて前橋市や赤城山の魅力を紹介するNPO法人「まえばし農学舎」を昨年7月に仲間とともに設立。7月には夫と一緒に初の教室を開いた。「さけるモッツァレラチーズ」を参加者と作り、酷農やものづくりへの思いを伝えた。
県外の高校に通い、仕事をしてきたからこそ、温かみのある人々や豊かな自然など地元の良さがより分かるようになりました。この魅力を発信して、赤城山南麓にもっと人を呼び込みたいと思っています。店に立った時は常に“赤城の観光大使”になったつもりで販売しています。チーズから赤城の自然を感じてもらって地元のファンが増えてくれたらうれしいです。
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Three Brown
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(前橋市粕川町中之沢384の96、027・285・6862)
営業時間は毎週水曜と日曜、月末の土曜の午前10時~午後4時