シリーズ からだ元気

“脂質(Lipid)”は、エーテルやクロロホルムなどの有機溶媒に可溶で、水に溶けない性質をもつ物質の総称です。また性状もオリーブオイルや大豆油のように常温で液体のものもあれば、ラード(豚脂)のような固体のものがあります。ではこの違いはいったい何によって変わるのでしょうか。今回は、脂質のなかでも私たちが食用としている油脂(食用油)の構造や酸化・変敗のしくみについて説明します。また、今月の“県産食材レシピ”で取り上げられているオリーブオイルについても紹介します。


執筆者略歴 あらい・かつみ
日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部畜産学科卒。茨城大学大学院農学研究科資源生物科学専攻(修士課程)修了。イセファーム(株)で鶏卵の生産管理を経て、同社飯沼研究所で企画卵の研究開発や鶏および鶏卵の品質管理等に従事。2001年から桐生大学の前身である桐生短期大学着任。専門は食品学。


元気な暮らしに役立つ栄養素のお話…荒井勝己 桐生大学医療保健学部栄養学科准教授 脂質・オリーブ油

何が違うの?

食品に含まれる脂質を特に“油脂”といい、風味や物性などに大きな影響を与えています。一般に、常温で液体のものを“油(oil)”、固体のものを“脂(fat)”で表し、以前は前者を植物から取れたもの、後者を動物から取れたものに使われていました。しかし魚油のように動物から取れたものでも常温で液体のものもあれば、カカオ脂のように植物から取れても固体のものもあるため、現在は動植物の区別なく性状により分けられています。

私たちが食用として利用している油脂は、液体・固体に関係なく、アルコールの1つであるグリセロールに3つの脂肪酸が結合した化合物で、中性脂肪(トリアシルグリセロール)といわれています(図1)。


脂肪酸は、炭化水素鎖とカルボキシル基をもつ化合物で、食品に含まれる脂肪酸は炭素数が14~20個のものが多く、炭化水素鎖に二重結合をもたない飽和脂肪酸と二重結合をもつ不飽和脂肪酸に分けられます。飽和脂肪酸はまっすぐな鎖に対し、天然に存在する不飽和脂肪酸のほとんどは二重結合の部分で折れ曲がった構造を示します(図2)。この折れ曲がり構造が油脂が、液体であるか固体であるかに大きく影響します。

動物性油脂は植物性油脂に比べてパルミチン酸(C16:0;16は炭素の数で0は二重結合の数を示す)やステアリン酸(C18:0)などの飽和脂肪酸を多く含み、まっすぐな鎖であるため、脂肪酸同士がくっつき合って動きがとれない状態(固体)になります。植物性油脂では動物性油脂に比べてリノール酸(C18:2)やα-リノレン酸(C18:3)などの多価不飽和脂肪酸を多く含み、折れ曲がった鎖のため、密に接しにくく流動性が生じて液体となります。実はこの脂肪酸組成が、油脂の性状や風味の違いだけでなく、脂質の酸化・変敗に大きく影響しています。

酸化とは

油脂は酸化すると、変色や異臭、風味や品質などが低下します。また、酸化した油脂を摂取することで活性酸素や過酸化脂質といった有害物質が体内に増えることによって、細胞も酸化し傷ついてしまいます。油脂の酸化促進因子として、脂肪酸の不飽和度(二重結合の数)、酸素、熱、光、金属イオン、食品に含まれる酵素などが挙げられます。これらの因子により酸化した油脂の度合いを示す指標として、酸価、過酸化物価、カルボニル価などがあります(図3)。

酸価とは中性脂肪から離れてしまった脂肪酸(遊離脂肪酸)の量を調ベた値です。精製されていない油脂に比べて精製された良質の油脂の酸価はきわめて低く、揚げ物などの調理によって酸価は上昇します。よって酸価は油脂の精製度や劣化の指標となります。

過酸化物価は、油脂に含まれる脂肪酸のうち、二重結合を有する不飽和脂肪酸の自動酸化により生成する過酸化物(ヒドロペルオキシド)の量を示す値です。自動酸化は酸素と紫外線の片方または両方の存在下で起こる酸化です。加熱調理による熱酸化とは異なり、放っておいても起こる酸化であるためやっかいな酸化といえます。先に述べたように植物性油脂には二重結合を多くもつ多価不飽和脂肪酸を構成として含むため、自動酸化を起こしやすい油脂といえます。

そこで、必ずふたをする(酸素と触れさせない)、冷暗所に保管する(熱、紫外線に触れさせない)ことで、酸化のスピードを抑える必要があります。また、熱酸化は使用前に比べ着色することで劣化の状態を目視で判断することができます。しかし、自動酸化は見た目や臭いで、変化を確認することができません。よって、賞味期限をよく見て期限の過ぎているものは使用しないように注意しましょう。

特徴

オリーブオイルは、植物油の多くが種子を原料として製造されているのに対し、モクセイ科に属するオリーブの果実から得られた油です。オリーブの原産地は地中海沿岸で、紀元前2000年以前から食用油として利用されていたといわれています。15世紀から19世紀にわたり世界各国に伝わりました。世界で生産されるオリーブの90%以上が油糧用に利用され、主産地はスペイン、イタリア、ギリシャなどで、日本では瀬戸内海沿岸で集中的に栽培されています。

オリーブオイルは、他の油脂と比べてオレイン酸(oleic acid)を多く含んでいます(表1)。オレイン酸の命名は、オリーブオイルから単離されたことが由来で、炭化水素鎖に二重結合が1つ存在する不飽和脂肪酸です。他の植物性油脂と異なり、多価不飽和脂肪酸が少ないので、酸化しにくい油脂といえます。

種類がたくさん!

“オリーブオイル”には「エキストラバージンオリーブオイル」や「ピュアオリーブオイル」などと書かれて販売されていますが、これらのオイルはいつたい何が違うのでしょうか。国際オリーブ協会(IOC=International Olive Council)では、製造方法や酸価により、以下のように規定されています。

バージンオリーブオイル
実だけを原料とし、化学的な方法や高熱での処理を行わないもの。以下の4階級に分かれます。
  1. エキストラバージンオリーブオイル(酸価0.8g以下)
  2. バージンオリーブオイル(酸価2g以下)
  3. オーディナリーバージンオリーブオイル(酸価3.3g以下)
  4. ランパンテバージンオリーブオイル(酸価3.3gを超える、主に工業用として使用)
精製オリーブオイル
バージンオリーブオイルを精製(脱酸・脱臭・脱色などの処理をすること)したもの(酸価0.3g以下)
オリーブオイル
精製オリーブオイルにバージンオリーブオイル(ただしランパンテは除く)をブレンドしたもの(酸価1g以下)
オリーブ・ポマースオイル
“ポマース”とは、果実から油を製造する際に残る紋りかすのことで、バージンオイルを捧った後の残りかすに残留している油分を有機溶剤等を使って抽出したもの。主に工業用として使用されています。

日本のオリーブオイルは現在のところ、日本農林規格(JAS)により定められています。JAS規格では以下の2種類の分類のみでIOCのような細かく分けていないのが現状です。

オリーブ油
(オリーブ特有の香味を有し、おおむね清澄であること。酸価2.0%以下)
精製オリーブ油
(おおむね清澄で、香味良好であること。酸価0.6%以下)

日本では主に、オリーブ油がエキストラバージンオリーブオイル、精製オリーブ油がピュアオリーブオイルとして販売されています。風味のあるエキストラバージンオリーブオイルはドレッシングや調理した料理の上にかけて食べるなどそのまま生食するのに適し、ピュアオリーブオイルは風味が抑えられ少しさらつとしたオイルなので、揚げ物や炊め物など加熱調理として使うのに適しているといえます。

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