シリーズ からだ元気

靴下をはこうと片足立ちになったらぐらついてしまった。何もないところでつまずいてしまった。もしこんなことがあったらそれらは筋肉の衰えが始まっていてロコモとなっているリスクが懸念されます。

実は加齢とともに筋肉をつくる力は弱くなります。高齢期のからだづくりでは、運動に加え、筋肉の素となる栄養を、しっかりと効率よくとることが重要です。筋肉の素となる栄養素はタンパク質で、その中でも必須アミノ酸をとることがとても大切です。


執筆者略歴 すがの・ゆみこ
明治大学農芸学部農芸化学科卒。味の素(株)入社。食品総合研究所配属。調味料「CookDo」をはじめとした、調味料、加工食品や、「メディミル」「アミノ工ール」といった医療用介護食品・健康食品サプリメントなど多岐にわたる商品開発・企画業務を10年以上担当。そのほか工場における生産管理業務、顧客対応業務なども従事した後、現職。学術広報を担当。


元気な暮らしに役立つ栄養素のお話…菅野由美子 味の素(株)東京支社営業企画グループ広報・普及チーム主任 人生後半こそ、 タンパク質をしっかりとりましょう

ロコモと健康寿命

ロコモ(=ロコモティブシンドローム)は、加齢によって運動器が弱くなり、歩行など日常でのちょっとした不具合が増える状態のことです。近年は、このロコモリスクが注目されています。

人生後半、介護を受けることなくいつまでも自立した生活をおくりたいというのは共通の願いです。実は介護に至る原因の約36%が、骨折・転倒・関節疾患、高齢による衰弱などによるものです。ロコモ対策を行うことにより、これらのリスクを下げることが期待されます。

対策と筋肉

ロコモ対策には、筋肉を維持することこそが大切です。筋肉は加齢とともに徐々に減っていきます。たとえば、20代を100%としたとき、70代では68%まで減るというデータもあります(図1)。また同じくらいの体格の20代女性と80代女性の大腿部を比べると、同じ太さでも80代女性では脂肪が増え筋肉が委縮していることが分かります(写真1)。気づかないうちに徐々に筋肉が減っていき、それがロコモの入り口となるのです。


一方筋肉は、運動器の中では比較的新陳代謝が早い組織です。およそ1~2か月で筋タンパク質の半分が入れ替わります。早ければ数ヵ月で改善が見込めるのです。加えて筋肉は骨や関節を支えて動かす組織なので、筋肉が維持されていれば、骨や関節にも良い影響を及ぼします。

必須アミノ酸

筋肉を構成する筋タンパク質を増やすために必要なのは「材料」と「指令」です。「材料」はタンパク質の素である20種類のアミノ酸です。その内9種類は、体内で合成できないため必ず食事からとる必要があるもので、「必須アミノ酸」と呼ばれています。この9種類の必須アミノ酸を食事でしっかりとれば20種類のアミノ酸をとったときと同様に、筋タンパク質が合成されることが分っています。食事から補給する「材料」のポイントは必須アミノ酸なのです。筋タンパク質の合成を促す「指令」は、運動と、必須アミノ酸の1つ「ロイシン」によってもたらされます。

つまり筋肉は、栄養と運動という生活習慣の見直しで改善することが可能です。その象徴的な実験結果を紹介します。80代の女性を対象に、筋タンパク質合成の「材料」と「指令」として、「ロイシン高配合必須アミノ酸3gを1日2回取る」、「定期的に運動をする」ことを3カ月間続けてもらいました。その結果、筋量も筋力も増加しました(図2)。

アミノ酸スコア100

実際の食生活ではどのようなことを心がければよいでしょうか。筋肉を維持するために重要なのは毎日のタンパク質の摂取です。「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、成人男性は1日に60g、女性は50gのタンパク質の摂取を推奨しています。しかし高齢期は、若いころに比べると同じ量の栄養をとっていても、筋タンパク質の合成量が少なくなる傾向があり(図3)、全体の食事量も少なくなりがちです。このため、食事が補給する必須アミノ酸を筋肉づくりにより活用できる、そんな食べ方がポイントとなります。

1つは「アミノ酸スコア100」の食材をしっかり食べること、2つ目はその中でもなるべく高タンパク質のものを選ぶこと、そして最後に筋タンパク質の合成を促すような食べ方を心がけることが大切になります。

必須アミノ酸は9種類あり、それぞれに基準量があります。しかし9つの中で1つでも基準量を満たしていないものがあると、他の8つの必須アミノ酸はその基準値を満たしていない1種類に合わせた量しか体タンパク質合成に使われないのです。アミノ酸スコアは、この基準量を満たしているかどうかを表した指標で、100であれば、食材に含まれる必須アミノ酸が体タンパク質合成に無駄なく使われるということになります。

「アミノ酸スコア100」となる食材は、肉・魚・大豆・牛乳・卵などです。「アミノ酸スコア100」はいってみれば「質が良い」タンパク質であることを示す指標ですが、量が多いかどうかの判断には使えません。そこで、食材に含まれるタンパク質量そのものが多いものを選ぶことがポイントとなります。肉なら脂肪分が少なめの赤身の部位を、魚なら赤身の魚がお勧めです。ただしこれら食材は味が淡白であり、かつ加熱すると固くなりがちです。そのようなときには、調味料などを上手に使い、味に変化をつける工夫が大切です。たとえば、中華の定番「回鍋肉」(写真2)を鶏むね肉を使ってつくる、そうするとたんばく質量も増え、またおいしく召し上がれます。


最後に、筋タンパク質合成を促すような栄養の取り方もポイントとなります。ビタミンB6はタンパク質の合成を助けてくれる栄養素です。鶏肉は精肉の中でも、ビタミンB6を多く含む食材です。その鶏肉と、転倒予防に効果があると期待されるビタミンDを多く含む卵を組み合わせた「親子井」(写真3)などは、お勧めのメニューの一つです。だしをしっかり効かせるとおいしく召し上がれます。

いわゆる一汁三菜の献立は、知らず知らずのうちに栄養バランスを整えることができるのでお勧めですが、たまには1皿もので済ませたいときもあります。そんな時は、具の中でタンパク質が多い食材を増やすなどちよつとした工夫をしてみてください。食事だけではどうしても足りないときは、おやつに卵を使ったプリンや乳製品のチーズを用意してみる、あるいは補食としてロイシン高配合の必須アミノ酸を含むサプリメントを利用するなども良いでしよう。

毎日の食事で、必須アミノ酸のバランスが良い高タンパク質食材を欠かさず食べ、軽い運動を心がける。地道な努力ではありますが、それがロコモ対策につながります。そして続けるためには何といっても手軽においしくが重要です。いろいろな調味料を活用することも大切なポイントだと思います。ぜひ今日から始めてみてください。

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