雄は6kgに成長
ブランド化目指す
棒名山の東麓に、何棟もの大きな鶏舎が東西に列をなしている。平飼いのせいか高さはあまりない。鶏舎内では生まれて1カ月ほどのひなから、100日過ぎた出荷寸前の親鶏まで約5000羽の「上州地鶏」が、元気に餌をついばんでいる。
「県畜産試験場が開発した地鶏です」と、施設を案内してくれた阿久沢さんが教えてくれた。「体が大きく身が引き締まっているので、肉はとてもおいしいですよ」と笑顔で話す。
2年前、それまでの銘柄鶏「上州風雷どり」を土台に、親鶏を替えて大型化に成功した。日本農林規格(特定JAS)に基づく地鶏の認定を受け、全国ブランド化への夢が広がる。
整備士から一念発起
「多くの県民においしい鶏肉を届けたい」と、阿久沢さんが一念発起して家業の養鶏を継いだのは、2年前のことだ。
自動車の整備士になることを夢見ていた阿久沢さんは、工業高校から専門学校へ進学すると、卒業後も整備士2級の資格を生かす道を模索し続けた。しかし、祖父の代から続く鶏卵中心の養鶏業のことも気になっていた。
転機になったのは、新たな上州地鶏の登場だった。本県に根付いていたシャモの雄に、日本人の味覚に合う「レッドコーニッシュ」と「ホワイトプリマスロック」の雑種の雌を交配した新品種で、シャモのように黒く大きな姿が魅力的だった。
「肉がたくさん取れるので、飼育コストがかかっても採算が合うのではないか」という思いも、新たな一歩を踏み出そうとする阿久沢さんの背中を押した。鶏卵の方は両親に任せて、上州地鶏の飼育と出荷作業に専念している。
飼料に桑の葉や梅酢
飼育日数は、通常のプロイラー(若鶏)の倍以上で、100~130日と長い。「出荷するときは雄が6kg、雌が4kgにもなります」と阿久沢さん。飼育が長い分、出荷数は少なく、1年間に最大で1万4000羽余りという。
飼料には桑の葉パウダーと、梅酢パウダーを加えている。「鶏の健康や肉質の向上に役立っています」。給餌は自動化されているので、阿久沢さんの日課はもつばら鶏たちの健康管理。ひなは寒さに弱いので、特に温度管理に気を使っている。
「広いスペースで、四季を感じさせながらのびのび育てています」。鶏舎を動き回ることで、肉が引き締まる効果があり、濃いうまみと弾力のある食感が、上州地鶏の魅力となっている。「すき焼きなどの鍋もので食べると、とてもおいしいです」と阿久沢さんは話し、裾野を広げて“県民食”にすることを夢見ている。