残りわずかになった2017年。群馬サファリパーク(富岡市岡本)では今年の干支[えと]である酉[とり]にちなみ、アトラクション「フライングショー」が人気を集めた。相棒の鳥たちと息の合った芸を披露する飼育員の岡本奈々さんは、福島県南相馬市出身。東日本大震災によって大きな被害を受けた古里を離れ、本県に来て5年目となる。古里に残る家族や津波によって亡くなった友人を思い、「今をしっかり生きよう」とステージに立っている。
福島の古里
思い前向く
鳥に負けないくらい
―鳥類やカピバラ、レッサーパンダを展示しているバードパークで、インコやフクロウなどが芸をするフライングショーの司会進行を担当するほか、出演する鳥類とカンガルーの飼育係を務めている。西年にちなんだイベントに加えて、話題になったアニメ「けものフレンズ」の影響もあって来園者も多く、目まぐるしい1年だった。ショーでは出演する鳥の生態や特徴を詳しく解説し、環境破壊によって数を減らしている野鳥の保護を呼び掛けているが、意外なことに飼育員になる前は鳥について知識があまりなかった。
小さい頃から動物が好きで、実家でもネコを飼っていました。同級生の家では相馬野馬追[そうまのまおい]に参加する馬を飼っていたりして、いつも動物が身近にいました。実は飼育員として接するまで、鳥とはあまり接点がありませんでした。先輩の司会ぶりを見ながら勉強して、徐々にお客さんと鳥との接し方を覚えました。好奇心が強かったり、甘えん坊だったりと一羽一羽ごとに性格も異なる鳥に魅力を感じています。ショーに出演しているコンゴウインコはとても頭がよく、愛情をかけた分だけ返ってくる感じがします。寿命もとても長く、中には60年以上生きる個体もあります。できるだけ長く健康に生きてほしいので、運動や食事の量に気を配りながら、いつも世話をしています。バスケットボールなどレクリエーションの盛んな職場なので、私も小まめに運動して鳥に負けないように長く生きたいです。
小さな命支えて
―バードパーク内のアカカンガルーの群れの中で、人懐こい表情を見せる赤ちゃんカンガルーのひとみちゃんの母親代わりにもなった。生まれて間もない頃、母親の袋から落ちてしまって命の危険があったひとみちゃんを同僚と3人で育てた。人の温もりを覚えているのか、人間の後を追って甘える姿がかわいいと来園者も目を細める。
袖を縛ったトレーナーを母親カンガルーの袋代わりにして温めました。3人で2時間ごとに交代して面倒を見ましたが、ひとみが心配で睡眠不足に悩まされる日が続きました。生きようと頑張るひとみの姿を見て、何とか助けたいと思っていました。生き物の世話をするのは大変ですが、元気に成長した姿を見て本当に良かったと思います。
友人2人の分も
―高校3年生の時、飼育員を養成する専門学校のガイダンスを聞いて動物と接する仕事に興味を持って進路を決めた。実家から離れて新生活を始めようとした矢先、古里を津波が襲った。福島第ー原発事故が続けて起きたため、父の単身赴任先ヘー時避難することになるなど、つらい時期を送った。
就職を機に今まで、あまり縁のなかった群馬県に住んでいます。専門学校では動物園やドッグパークなどいろいろな施設で実習しましたが、動物との距離が近いサファリパークを選びました。危険な動物との接し方や自分で考えて行動することの大切さなど、実習生にも厳しい面を包み隠さず教えてくれたので、就職先に選びました。
津波が街を襲った時、高台にあった実家は無事でしたが、海岸近くに住んでいた友人2人が犠牲になってしまいました。小学校からの付き合いでバレーボールのチームメートでした。津波の後、連絡がつかず心配していました。2人は数日後に発見されましたが、事実を受け入れるまで大変でした。帰省した時は2人の墓参りをして、私の近況を伝えています。群馬は実家から遠く離れているので家族になかなか会えませんが、「2人の分まできちんと生きていこう」と思って頑張っています。