赤ちゃんが欲しいのに抱くことのできないカップルが増えています。不妊症への理解は広がってきましたが、妊娠しても流産や死産を繰り返す「不育症」は認知度が低く、つらい思いをしている人がいます。前橋市紅雲町、群馬中央病院のリプロダクションセンター長で産婦人科医の伊藤理廣さんは「原因治療など手助けできることもあります。流産を繰り返す場合は早めに専門の医療機関を受診してほしい」と助言します。
不育症への理解
深めよう
流産・死産を繰り返す
一般に流産は妊娠全体の10~15%の確率で起こるため、病気や原因がなくても10組に1組は流産を経験しています。2回続けて流産する確率は100組に1組、3回だと1000組に1組になる計算です。
不育症は流産や死産を繰り返し、最終的に赤ちゃんを抱くことができない状態です。不育症の原因(リスク因子)を厚生労働省の研究班が調べたところ、分かったのは全体の3分の1でした。①子宮の形態異常②内分泌異常(甲状腺機能異常や糖尿病)③凝固異常(血栓ができやすい抗リン脂質抗体が陽性、血液凝固因子欠乏症)④両親の染色体異常─の四つの原因があり、それぞれ対処法や治療法が異なります。
原因不明が3分の2
①は手術(または経過観察)、②③は内科的治療を行います。両親が持つ染色体を改変することはできませんが、④の染色体異常のなかで例えば均衡型相互転座(染色体の一部がほかの染色体の一部と入れ替わっている状態)であれば一定の確率で流産せずに子供が生まれます。妊娠の回数が増えれば期待値が高くなるわけですが、流産を繰り返すことによるストレスは大きく、気がめいってしまう人もいます。他の手段として、体外受精で染色体異常のない受精卵を移植する方法があります。
医療機関を受診するタイミングは、抗リン脂質抗体症候群の診断基準を参考にしてください。①妊娠10週以降に染色体異常などの原因が無いにもかかわらず流・死産した②妊娠34週以前に妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全で早産した③10週未満で3回流産を繰り返した─のいずれかに該当したら不育症を疑ってください。
自信持ち普通に暮らす
原因が分からずに流産を繰り返す人もいます。残念ながら積極的な治療法はありませんが、最近は国内外で「テンダー・ラビング・ケア(優しく愛情のこもったケア)」が注目されています。通常の妊婦健診よりも受診する間隔を短く(最低でも週1回)して、不育症専門の医師が「あなたの妊娠は順調に進んでいますよ」とはっきり伝えるだけでも安心感が広がります。家族は「また流産するんじゃないか」と心配を口にしたりネガティブな言葉は使わず、本人の行動や考えを批判しないで気持ちが楽になるように支えてください。夫も「担当医の先生が『大丈夫』っていうのだから大丈夫だよ」と声を掛けて寄り添います。
何もしないと不安になる人には漢方薬を処方することもありますが、自分に自信を持つことが何よりも大切です。インターネットなどの情報に振り回されず、普通に暮らすこと。家族や周囲の人は静かに見守ってあげてください。