「栄養・運動・
社会参加」で
健康長寿
老年病研究所附属病院
高玉 真光さん
「最近やせて体重が減った」「太もも周りが細くなった」「わずかな段差でつまずく」「何をするのも面倒」…。高齢になるにつれて感じる体力や気持ちの衰えを「年のせい」とあきらめていませんか。前橋市大友町の老年病研究所附属病院の院長、高玉真光さんは「寝たきりや要介護状態を少しでも先送りするには、一歩手前の状態『フレイル』に気づいて生活を変えることが大切」と助言します。
フレイルを予防
生きていればやがて誰にでも訪れる「老い」。気力や体力が衰え、認知機能が低下し、自立度が下がると要介護状態になります。しかし、同世代にもかかわらず意欲旺盛で元気な人もいます。差が出るのはどうしてでしょうか。
かつて生活習慣病の予防が健康長寿につながると考えられていましたが、高齢になるとそれだけで健康は保てないことが分かってきました。「健康」と「要介護」の間に位置する、さまざなま機能が衰え始めている状態を「フレイル」といいます。このフレイルの兆候をより早く発見して介護状態になる手前で気づき、対策を取ることが大切です。
フレイルは、虚弱を意味する英語「フレイルティー」を語源に、日本老年医学会が2014年に提唱した概念です。特徴は、筋肉量が減って起こる身体的な衰えだけでなく、認知機能が低下したり心が沈むなどの認知・心理的な衰え、人とのつながりが減ったり経済的困窮によって引きこもる社会的な衰え、の三つが互いに影響し合います。まずはフレイルチェックをしてみましょう=表1。
タンパク質が不足
予防や改善には「栄養・運動・社会参加」の三つが基本です。
バランスの良い食生活を意識していますか? 特に重要なのが栄養です。食事の時間を決めて朝昼晩と欠食せずにしっかり食べること、食の細い人は間食をして栄養補給します。高齢期に特に不足しがちなのが肉、魚、卵、大豆製品(豆腐や納豆)に多く含まれるタンパク質。骨の健康や筋肉量を維持するには一日1杯の牛乳、またはヨーグルトの摂取も大切です。口腔[こうくう]機能が低下すると、かむ力や飲み込む力が弱くなってしまうので、定期的な歯科健診も忘れずに。
ふくらはぎの太さを測ってみましょう=図1。全身の筋肉量のおおよそを知ることができます。筋肉の量と筋力、身体機能(運動能力)は加齢に伴い減少し、フレイルや骨折、転倒の危険が高くなります。改善するにはタンパク質を意識した栄養バランスのよい食事に加えて運動すること。体を動かすと血流が良くなり、食欲がわいて腸の動きも活発になります。気分もそう快になります。ウオーキングは心臓や肺の機能を強くし、筋肉トレーニングやバランス訓練は筋肉や筋力アップ、ストレッチは関節の動きを良くする効果があります。楽しく安全に行うことが長続きの秘訣[ひけつ]です。持病がある人は主治医と相談しながら無理をしないように注意し、自分に合った運動を生活の中に取り入れてください。
友達つくって交流
家に閉じこもっていませんか? 元気で長生きしている人は意欲があり、社会参加や社会貢献をしています。一方、外出せず、孤立しているとフレイルだけでなく認知機能の低下にもつながることが指摘されています。趣味やボランティア、老人会、自治会などで友達をつくり、積極的に出掛けて交流しましょう。
定期的ながん検診や健康診断を受けて病気を早期発見、早期治療することや、かかりつけ医を持って健康管理することは大切です。その上で、あらためて日々の暮らしを振り返り、意識して生活することに「健康長寿の鍵」が隠されていると思います。