甘さと食感で
季節を先取り
季節を先取りするかのように、小玉スイカがスーパーの生鮮食品コーナーをにぎわせている。小玉スイカの本県主産地である太田市藪塚地区では、農家の人たちが連日、収穫や出荷作業に追われている。甘さは大玉スイカに引けを取らないし、シャリシャリとした独特の食感も堪能できる。味覚を通して一足早い夏の気分を味わってみては─。
平坦な畑地が広がる太田市藪塚地区。豊富な日照時間や水はけの良い土壌条件を生かして、古くからスイカの生産が盛んに行われてきた。露地やトンネル栽培が主流で、ハウス栽培に発展したのは昭和40年代以降。
福島さんの家でも、祖父の代からスイカ作りを手掛け、現在は群馬ブランドの「藪塚小玉スイカ」を37棟のハウスで栽培している。
案内されて、1棟のハウス(長さ45m、幅5m)に足を踏み入れた。中は少し汗ばむくらいの温度だ。たくさんの蔓が絡み合い、青々とした葉がグリーンベルトのように奥へと続く。「ここはあと1週間ほどで収穫できます」。直径15~20㎝に育った黒いしま模様の小玉スイカを手にした福島さんの顔に、笑みがこぼれた。
品種は「愛娘さくら」
農家の長男に生まれた福島さんが、就農を決断したのは14年前。高校を卒業後、自動車関連の会社に勤めていたが、父親の働く姿を見て、徐々に農業に引かれていったという。
「農業はとても難しいです。でも、青空の下で汗を流すのは気持ちがいいし、やりがいと充実感を味わうことができます」と、福島さんは心の内を語る。
小玉スイカの栽培品種は「愛娘さくら」。果肉がしっかりしていて、みずみずしく、甘味が強いので人気がある。毎年11月下旬から順次苗を定植し、3月から7月まで収穫作業を行う。これからが最盛期だ。
「品質を維持するためには、毎日の温度と湿度管理が欠かせません」と福島さん。寒い時期は、ハウス内をビニールで4重に被覆して暖かさを保つ。雌花が咲いたら一花ずつ丁寧に人工授粉を行う。「ミツバチが活発になる4月末まで手作業で行います」
ほかにも、わき芽を摘んだり摘果や蔓を整えたりと、気の抜けない作業が続く。「当初は失敗ばかりしていました」と苦笑するが、今では父親の章雄さん(69)から頼りにされる存在に成長した。
高品質の維持に全力
収穫作業は主に午前中で、午後は選別と箱詰めを行い、地元のJAに出荷している。収穫する際は、事前にJA職員による「出荷前検査」を受ける決まりがある。生産者立ち会いの下でスイカの試し切りを行い、糖度を調べたり食味をしたりして品質をチェックする。
「ブランドとして一定の品質を維持しなければいけません」と話す福島さんは、現在、JA太田市スイカ部会の副部会長を務めている。会員は38人で、高品質のスイカ生産を目指して各種講習会の開催や意見交換などを行い、会員同士の連携を密にしている。
「皮が薄くとてもジューシー。しかも、手ごろな食べきりサイズなので、贈答品として喜ばれています」と自信をのぞかせる。
収穫や選別作業のときに福島さんが使用する軍手は、右手人差し指の先の部分がない。指先でスイカを弾き、その音で完熟かどうかを判断するためだ。未熟でも熟れ過ぎても味は落ちる。「最高の味をお届けしたい」という気持ちは人一倍強い。
元気な暮らしに役立つ栄養のお話…熊倉 慧
高崎健康福祉大学健康福祉学部健康栄養学科助教
夏を代表する食べ物
“スイカ”
夏の食べ物と聞いてスイカを思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。今回は、そんな夏の代表選手ともいえるスイカについて紹介します。みなさん、暑くなってくるこれからの季節、よく冷えたスイカを食べてはどうでしょうか。
ルーツとさまざまな品種
スイカは、アフリカの砂漠地帯が原産地で、ウリ科のつる性植物です。日本には、中国から伝来してきたといわれています。漢字では「西瓜」と書きますが、これは、中国で西域から伝わった瓜という意味でつけられたようです。スイカの種類は多く、10kg以上にもなることがある大玉スイカ、赤や黄色・オレンジ色の果肉や楕円形の形などバリエーションに富んだ小玉スイカ、しま模様が薄い無地皮スイカや皮全体が黒い黒皮スイカ、黄色い皮の黄皮スイカなどがあります。また、種なしスイカと呼ばれるものもあります。これは細胞内のゲノムのセットを3セットにし、3倍体では種子ができないことを利用して作られたものです。
2016年、全国のスイカ収穫量は、農林水産省の作物統計調査によると、344,800tで、熊本県(48,700t)、千葉県(41,300t)、山形県(33,700t)が上位を占めています。
栄養成分
スイカの一般成分について見てみましょう。日本食品標準成分表2015年版(7訂)によると、赤肉種・黄肉種とも生のスイカ100gあたりのエネルギー量は、37kcalで、水分89.6g・たんぱく質0.6g・脂質0.1g・炭水化物9.5g、そして灰分が0.2gとなっています。
スイカの特徴的な成分として、代表的なものにシトルリン(図1)があります。シトルリンはアミノ酸の一つで、スイカの果汁から和田光徳によって発見された化合物で、その名前はスイカの学名に由来します。シトルリンは、体内でできたアンモニアを尿素に変換する尿素回路を円滑に機能させる働きがあります。また、シトルリンは体内での一酸化窒素(NO)の産生に関与していることが知られており、NOは血管を拡張し、血液の循環を助けます。スイカの果肉には、トマトで知られるリコピンやβ-カロテンが含まれ、抗酸化作用などが期待されます。