“健康野菜”
として人気
ニラはニンニクと同じ宿根野菜で、新陳代謝を促す成分や多くの栄養素を含んでおり、“健康野菜”として人気がある。広く食されるようになったのは戦後で、ギョーザなどの中華料理に利用され急速に普及した。疲労回復効果があり、精力がつくスタミナ料理にうってつけ。調理法はお吸い物やおひたし、炒め物などお好み次第で。
全国5位のニラの生産量を誇る本県で、有数の産地として知られる伊勢崎市。冬場の換金作物として昭和30年代後半から栽培が始まり、「味にら」のブランド名で首都圏などに出荷している。
華蔵寺公園東方の田園地帯にある川端さんの家では、父親の利夫さん(67)を中心に家族4人で力を合わせ、ニラのハウス栽培を行っている。ハウスは大小40棟を数え、周年で出荷しており、出荷量は1カ月平均3.5tに上るという。
「『味にら』は有機質肥料を主体とした栽培法で、しっかりとした管理の下で育てています。柔らかくて甘みがあり、とてもおいしいです」と話す川端さん。40~50cmに成長したニラを刈り取るため、手にした鎌をギュッと握り締めた。
再生能力の高い品種
祖父が始めたニラ栽培は、父親の代になって栽培面積が4倍に広がった。3代目の後継者として、川端さんが就農したのは昨年の1月。大学を卒業後、栄養士の資格を生かして給食関係の会社に勤めていたが、米・麦・ニラを3本柱とする農業経営の道を選んだ。
「父親の働く姿を見て育ったので、農業が大変なのは分かっていました」と川端さん。今は修業の身と考え、米や麦作りに加えて、利夫さんの指示に従い種まきから苗の定植、追肥やかん水、収穫、出荷まで、ニラ栽培に関するすべての作業に打ち込んでいる。
栽培品種は大葉ニラの「ワンダーグリーンベルト」が中心。生育は旺盛で、収穫後の再生能力が高く、収量の多いのが特長。ニラはもともと生命力が強く、一度植えつければ2~3年収穫できるといわれるが、利夫さんは毎年新しい苗を育てて植え替えしている。
「手間はかかりますが、その分苗が元気なので、年に7~8回は収穫することができます」と川端さんは笑顔で話す。四季を通して出荷できるように、ハウスごとに定植時期をずらすなどの工夫も行っている。
家族4人、力合わせて
収穫を迎えたハウス内は、緑のじゅうたんを敷き詰めたような光景が広がる。川端さんは入り口付近から順次、ニラの根元付近を左手でつかみ、素早く右手の鎌で一株ずつ切り取っていく。サクサクという音とともに独特の香りがあたりに漂い始めた。
収穫したニラは、自宅の庭先にある作業場に運び、母親の澄江さん(64)、妻の里枝子さん(27)と一緒に、JAに出荷する前の調整作業を行う。「長さ45cm、重さ100gという規格に合わせて袋詰めを行います」と澄江さん。かなり根気のいる作業だ。
収量アップと品質の向上に向けて、利夫さんは独自に肥料を考案したり、追肥のタイミングを図ったりしている。病害虫対策にも細心の注意を払う。川端さんが学ぶべきことは山ほどあり、農業の奥深さ、経営の難しさを実感する毎日のようだ。
「朝の早いのがつらいが、やりがいのある仕事です」と川端さん。「会社勤めの経験や栄養士としての知識を、農業生産の場に生かしていきたい」と力強く話す。
元気な暮らしに役立つ栄養のお話…荒井 勝己
桐生大学医療保健学部栄養学科准教授
におい成分で
健康増進
ニラはヒガンバナ科ネギ属に属する多年草の緑黄色野菜で、中国西部が原産とされています。東アジアに広く分布し、日本をはじめ、中国、フィリピン、インド、インドネシア、台湾などで栽培され、ヨーロッパやアメリカではほとんど利用されていません。「古事記」や「万葉集」にも出てくるほど古くから知られていた野菜で、その独特な香りから地方によってさまざまな呼び名で親しまれています。
種類
日本食品標準成分表2015(七訂)でニラを調べると、一般的なニラ(葉)以外に、黄ニラ(葉)、花ニラ(花茎・花らい)があります。黄ニラは品種名ではなく、栽培方法によって生まれたもので、ニラの芽が出る前の根株に覆いをかぶせて光を遮断することで、色素をもたない白色の状態で生産されます。ニラ特有の臭みは減りますが、柔らかく、甘みが有り、中華料理でよく利用されます。花ニラは、花茎とその先につく蕾の部分を食用として、その独特の歯ごたえや甘味、香りから黄ニラ同様、中華料理でよく利用されています。花ニラは一般的な青ニラの品種ではなく、「テンダーポール」という花芽の出やすい専用品種を用います。1年間に数回の収穫が可能で、葉は硬いため花茎だけを利用します。
特殊成分
ニラはビタミンを多く含む野菜であり、特にβ-カロテンが豊富に含まれています。このβ-カロテンは発ガン抑制作用や免疫力を高める効果が知られていますが、体内でビタミンAに変換され、視力維持、粘膜や皮膚の健康維持などにも役立っています。また、ビタミンEやビタミンCも豊富で、抗酸化作用により老化の防止や動脈硬化や心筋梗塞などの生活習慣病の予防にも役立っています。
ニラのにおいのもとは硫化アリルの一種である“アリシン”という物質です。このアリシンは、ニラに含まれるアリインがアリイナーゼという酵素の作用により生成するにおい成分で、においだけではなく、豚肉やレバーなどに多く含まれるビタミンB1と結合して脂溶性のアリチアミンを生成。このアリチアミンになることでビタミンB1の吸収率が上昇することが知られています。レバニラ炒めは、レバー独特の臭みをニラのアリシンが消臭し、さらにビタミンB1の吸収を促進するという効果から、ベストな組み合わせといえます。
国内収穫量
農林水産省が発表している「農林水産統計」(平成29年)によると、ニラの収穫量第1位は高知県で15,400t、国内収穫量59,600tの約1/4を占めています。出荷量日本一の香南市では、ご当地グルメの“香南ニラ塩焼きそば”が有名です。第2位は栃木県で9,970t、“餃子の街”宇都宮の周辺で多く育てられています。第3位は茨城県(7,850t)、第5位は群馬県(3,200t)と北関東だけで国内収穫量の約35%を占めています。ちなみに黄ニラは岡山県が主産地で「黄ニラばら寿司」というご当地グルメがあります。