注意したい 高齢者の 糖尿病治療

お医者様
もんでん内科クリニック院長 門傳 剛さん

超高齢社会に入り、高齢の糖尿病患者が増えています。血糖値の高い状態が続く糖尿病ですが、最近は高齢になると繰り返しやすい「低血糖」の危険性が注目されています。高崎市天神町、もんでん内科クリニック院長の門傳剛さんは「治療を工夫しながら血糖値をコントロールすることが大切」と呼び掛けます。

低血糖を起こさない

糖尿病は「食べ過ぎで起こる病気」といわれますが、そこにはインスリンが大きく関わっています。白米やイモなどの主成分である炭水化物、砂糖や果物などに含まれる糖質、これらは体内でブドウ糖(糖)に分解され、エネルギー源として使われます。糖を全身に運ぶ際に必要なのがインスリンで、これはすい臓で作られるホルモンの一種です。

食べ過ぎてインスリンが不足したり効き目が悪いと、血液中に糖があふれ出します。過食や運動不足などの生活習慣によって血糖値の高い状態が続くのが糖尿病(2型糖尿病)です。これとは別に、すい臓でインスリンが作られなくなるために発症する1型糖尿病もあります。糖尿病を放置すると全身の血管が傷付き、さまざまな合併症を引き起こします。障害は目の網膜、腎臓の糸球体、神経といった毛細血管から始まり、進行すると失明や人工透析、下肢の切断などにつながります。

転倒や認知機能低下

血糖値を下げることが治療の目的と思っている人は少なくありません。しかし、食事を厳しく制限したり、薬が効き過ぎたりして血糖値が急激に下がると体にさまざまなダメージが加わります。特に高齢者は重度の低血糖を繰り返しやすく、認知機能の障害や心筋梗塞、狭心症などのリスクが高まるため「低血糖を起こさない治療」が必要です。空腹時に現れる「ぼーっとする」「手が震える」「動悸がする」などの症状は低血糖のサインです。放置すると意識が無くなり、命を脅かすこともあります。

過去1、2カ月前の血糖値を調べる血液検査「ヘモグロビンA1c」は6.5パーセントを超えると糖尿病が疑われます。治療目標は年齢、罹患期間、低血糖の危険性、サポート体制などによって設定しますが、高齢者の場合は7.0パーセント未満を基準に認知機能やADL(日常生活動作)の自立度、併存疾患などを考慮して0.5~1.0パーセントの余裕を持たせて個別に設定します。例えば、元気で普通に体が動かせる人は7.0パーセント未満、インスリン注射や強い薬を服用している人は7.5~8.0パーセント未満です。あくまで個人差があるので自己判断せずに、かかりつけ医の判断に従ってください。

治療の柱は食事・運動・薬物療法の三つ。飽食の時代、食べたいのに我慢しなければならないストレスがたまる治療ですが、食べていけないものはありません。実りの秋、庭のカキを好きなだけ食べてはいませんか。まんじゅうやお菓子につい手が伸びていないでしょうか。ゼロにするのはつらいこと、まずは半分に減らすことから実践してください。

食後30分から2時間の間に運動をすると、食後の急激な血糖の上昇(食後高血糖)を抑える効果があるといわれています。運動の種類は何でも構いません。理想は1日30分の早歩きやジム通いですが、膝への負担が少ない水泳やラジオ体操など、自分でできそうだと思ったことから始めましょう。

飲み忘れ防ぐ工夫を

薬はきちんと飲んでいますか?「最近、飲み忘れが増えた」「糖尿病以外の薬もあって、食事の前後に2回薬を飲むのが大変」など困っている人に向けて、同じ治療効果でも「毎日服用する薬」と「週1回の薬」など、さまざまな種類の薬が開発されているので主治医に相談してください。定期的な通院は、合併症を早期発見するだけでなく、血糖値を把握するためにも大切です。検査結果を継続して記録していくと生活習慣の参考値になるだけでなく、何らかの体の異常が出た時もより早く対処できます。

糖尿病は自覚症状がない分、治療の継続が難しい病気です。けれどイソップ物語『アリとキリギリス』のように、好きなものを自由に食べていたキリギリスはある日突然、大病してしまいます。アリのようにコツコツやってきた人はちゃんと報われ、寿命を迎えるまで体を動かして生活できると思います。

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