幅広い用途の
ダイコン
煮物や漬物をはじめ、みそ汁の具、刺身のつまなど、さまざまな形で食卓に上るダイコンは、実に幅広い用途を持っている。冷たい北風が吹くこれからの季節に人気のおでんの具としても欠かせない。うま味とだしの効いた汁をたっぷり吸ったダイコンの味は格別だ。どんな料理にも見事に“変身”するダイコンを使って、いろいろなメニューにチャレンジしてみよう。
南に赤城山、西に子持山を望む丘陵地に広がるダイコン畑。収穫期を迎えて、一面が緑の葉に埋め尽くされている。葉の下をよく見ると、土からわずかに白い部分が顔をのぞかせている。
畑の中に入った茂木さんは、両手で葉を束ねるようにつかむと、力強くグイと上に引き上げた。その瞬間、長さ50cmほどに育った丸太のようなダイコンが姿を現した。
「栽培面積はトータルで年間10haに上ります」と茂木さん。秋ダイコンの最盛期とあって、妻の方子さん(51)と長女の麻里子さん(24)、2人のパート従業員とともに、午前中いっぱい収穫作業に汗を流し、午後は出荷前の洗浄作業に励む毎日。
「秋ダイコンは軟らかいので、煮物に向いています」と言いながら、茂木さんは手にした大根を高く掲げた。
大根おろしや漬物用に
高校卒業後、会社勤めをしていた茂木さんが農業を継いだのは23歳のとき。それまでは養蚕、葉タバコ、コンニャク栽培が中心だったが、「父親と同じものはやりたくない」と、トマトのハウス栽培を始めた。ダイコンはそれから3年後のことで、養蚕や葉タバコに代わって、家計を支える中心作物となった。
栽培品種は、春が「天宝」など3種類、秋が「冬美人」など3種類で、いずれも契約栽培として行っており、それぞれ大根おろし用や漬物用などに利用されている。
連作障害を避けるため、茂木さんは同じ畑でハクサイ―トウモロコシ―ダイコンの順に輪作を行っている。収穫後のトウモロコシは、土壌にすき込むことで、緑肥として良質のおいしいダイコン作りに役立っている。
「基本的には減農薬や無農薬を心掛けています」と茂木さん。除草剤を使わないため、種まきや収穫作業に加えて、草刈りも手作業で行わなければならず、大きな負担を強いられているが、「安全な野菜作りに労力はいといません」と力強く語る。
農閑期にはみそ造り
7年前に農業生産法人「奥利根自然菜園」を設立し、野菜作りの合間に6次産業としてみそ造りも行っている。「以前、沼田ブランドの天狗枝豆を栽培していました。しかし、収穫が間に合わず出荷できなかった枝豆(大豆)がたくさん残り、その有効活用として思い付いたのがみそ造りでした」と振り返る。
現在、赤大豆や茶豆大豆などを使った4種類のみそを農閑期(1~3月)に仕込み、「清七味噌」の商標で年間8tを出荷している。「市内の学校給食センターでも、みそ汁として利用していただいていますが、おいしいと子どもたちに好評です」。ほかにも、瓶詰めの「おかずみそ」を販売したり、インスタントみそ汁の試作を行ったりしている。
「畑に捨てていたダイコン葉をみそ汁の具に使えないか、という発想がヒントになりました」と茂木さん。東京農大醸造科学科を卒業した長女、麻里子さんに新商品開発への期待を膨らませている。
元気な暮らしに役立つ栄養のお話…松岡 寛樹
高崎健康福祉大学農学部設置準備室長
辛味と香りに
抗菌作用
2015年に厚生労働省が発表した「日本人における野菜の摂取量ランキング」によると、ダイコンの平均摂取量が33.8gであり、1位にランキングされました。この公表されたデータは11月のある一日の調査結果とはいえ、どんな料理にもあわせられるダイコンならではともいえます。
ダイコンは地中海沿岸が原産とされ、アブラナ科植物ダイコン属に分類される。日本ではダイコンは昔から“大根(おおね)”とも呼ばれ、その真っ白い大きな根は誰もが知るところです。最近では、サラダの用途としての需要があることから、白色以外に赤、紫、緑、黒色を呈するものもあります。他方、ダイコンは、カブ程度の小さいものから、守口大根のように細長いもの、そして巨大な桜島大根などがあります。100以上の品種があるといわれ、アブラナ科植物の交雑しやすさということだけでなく、日本人のダイコンに対する深い思い入れが関係しているのではと思います。
イソチオシアナート
日本食品成分表をみると、ダイコンの栄養成分であるミネラル、ビタミン類は、根よりも葉の方に多く、捨てられてしまっているのは残念な気がします(表1)。一方、根部には、小腸のエネルギー源であるグルタミンや抗高血圧効果を有するγ-アミノ酪酸などの機能性アミノ酸や抗酸化性を発揮するポリフェノールを含有しています。その他、殺菌効果やがん予防効果が期待されているイソチオシアナートは葉よりも根部に多く、量が多いと辛味として、少ないと香りとして働きます。ダイコンの細胞内では、無味無臭の辛味前駆体として存在し、咀嚼やすり下ろしにより細胞が壊されることで、酵素反応が進み、イソチオシアナートを生成します(図1)。特に、辛味前駆体は皮に近い部位に多く、外敵に襲われると反応が進み、抗菌性を発揮します。大根おろしにすることで、日本人はその特性を食事にも取り入れてきたといえます。
調理・加工
図1に示したように、ダイコンで見いだされるイソチオシアナートは4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアナートとよばれています。ダイコンの葉に近い部分(上部)は辛味が弱く、根の先端に向けて辛味が強くなります。これを分析すると、上部に比べて先端部は2~6倍多いことが明らかになっています(図2)。
大根おろしをしばらく放置すると、辛味が弱くなります。これはイソチオシアナートの分解によるもので、それに伴いタクアン臭が出てきます。この性質は、ダイコンを使った料理だけでなく、乾物や漬物の風味にも関係しています。ダイコンは貧しい時代の日本人の食生活を支えてきた重要な野菜です。そのためさまざまな調理・加工法が生まれてきたといえます。