アルツハイマー病 認知症は1種類 だけじゃない

お医者様
群馬大学院脳神経内科 池田 佳生さん

「認知症ってアルツハイマーのことじゃないの?」と思いがちですが、そうとは限りません。アルツハイマー型認知症は全体の約5割。ほかにも発症する原因は複数あり、初期症状や治療・対処法も種類によって異なります。群馬大医学部附属病院脳神経内科教授の池田佳生さんは「中には鑑別するのが難しい疾患もあります。困ったときは認知症疾患医療センターで相談してほしい」と助言します。

疾患別に適切な治療を

脳がうまく働かないと、精神活動も身体活動もスムーズに運べなくなります。認知症は、何らかの原因で脳の神経細胞が死んだり、働きが悪くなったために障害が起こり、日常生活にさまざまな支障が出ている状態です。

三大認知症と呼ばれるのがアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)、血管性認知症とレビー小体型認知症で、全体の約9割を占めます。残り1割の中にも認知症を引き起こす疾患が複数あります。認知機能が落ちてきたら、原因となる疾患に合った適切な治療を受けることが大事です。

【アルツハイマー型認知症】 神経細胞が減少して脳が萎縮する病気。記憶障害が徐々に進行する。➀最近のことほど忘れたり、部分的にではなく全体がすっぽり抜ける物忘れ➁昼夜や日時、季節の取り違えなどの時間の見当識障害➂料理などの手順や計画が必要な行動が難しくなる実行機能障害─の三つが特徴。薬で進行を遅らせる。

【血管性認知症】 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳卒中によって脳の神経細胞が死滅するために起こる。障害された場所によって歩行障害や言語障害などが出る。脳卒中を繰り返すと症状が進行する。

【レビー小体型認知症】 病的タンパクの一種(レビー小体)が脳に蓄積する病気。実際には存在しないものが鮮明に見える幻視が初期から現れる。パーキンソン症状(小刻み歩行、体が硬直し転びやすい、動作が鈍い)と妄想などの症状が徐々に進行する。調子のよい日と悪い日の差が大きい。薬で進行を遅らせる。

【前頭側頭型認知症(ピック病)】 脳(前頭葉と側頭葉)が萎縮する病気。周囲を気にせず自分の思うままに行動してしまう、毎日決まった時間に同じ行動を繰り返す、といった性格の変化や行動面での異常が目立つ。落ち着きの無さなどの精神症状に対して薬を使う。

【特発性正常圧水頭症】 脳室にたまった髄液が脳を圧迫することが原因。合併する症状は歩行障害(足を開き気味にしてチョコチョコ歩く)。集中力、意欲・自発性の低下や物忘れが次第に強くなり、尿失禁を伴う。髄液シャント手術で改善する。

【慢性硬膜下血腫】 脳の表面を覆う硬膜と脳とのすき間にじわじわと出血が生じるため、血腫(血のかたまり)が脳を圧迫して起こる。運動まひや認知機能障害(アルツハイマー型認知症よりも速い進行)が出る。まひは半身に出ることが多い。血腫除去手術で改善する。

【甲状腺機能低下症】 体の新陳代謝を促す甲状腺ホルモンの異常(不足)によって起こる。気力の低下や認知機能障害が特徴。

【ビタミン欠乏症】 消化器の病気などによる吸収障害や偏食によるB1、B12、葉酸などのビタミン不足が原因。記憶障害や実行機能障害などが出る。

鑑別診断は専門施設で

鑑別診断が難しい疾患は、県内に13カ所ある認知症疾患医療センターで詳しい検査ができます。その際に日常生活の様子や気になる症状、本人の訴えなどをメモしておき、医師に伝えると大いに役立ちます。

認知症の最大の危険因子は老化。これは誰も避けられませんが、過度のアルコール、喫煙、外傷(転んで頭を打つ)などの危険因子は自分で減らすことができます。また、最近は生活習慣病(糖尿病、脂質異常症、高血圧、肥満症)がアルツハイマー病の危険因子になることも明らかになっています。生活習慣を見直して、できることから取り組みましょう。

発行
上毛新聞社営業局「元気+らいふ」編集室
FAX.
027-254-9904