喫煙と飲酒で 食道がんに!?

お医者様
県立がんセンター消化器外科 尾嶋 仁さん

食べたり飲んだりした後、胸につかえたり違和感があると心配になりませんか。食道がんは進行しないと自覚症状が出にくいがんですが、最近は胃がん検診や人間ドックなどで早期がんが見つかりやすくなりました。太田市高林西町、県立がんセンター消化器外科部長の尾嶋仁さんは「早期で見つかれば内視鏡で切除できるので食道を摘出せずに済みます。気になる症状があったら放置しないで」と呼び掛けます。

リンパ節転移しやすい

食道がんは、同じ消化管でも胃がんや大腸がんと比べて転移や再発の危険が高いといわれます。早い段階からリンパ節へ転移しやすいからです。さらに、同じ粘膜組織でできた胃がんや頭頸部(とうけいぶ)がん(咽頭や舌がんなど)が一緒に見つかったり、時間をおいて発生しやすい「重複がん」の一つでもあります。

主な要因は喫煙と飲酒です。がん細胞の種類(扁平(へんぺい)上皮がんと腺がん)によって発症原因は異なりますが、日本人の9割を占める扁平上皮がんは二つの危険因子の間に強い関連があります。

アルコールが肝臓で分解されてできるアセトアルデヒドは、悪酔いの原因であるのと同時に発がん性物質でもあります。血液によって全身に運ばれると通常はアセトアルデヒドを分解する酵素によって細胞は守られます。しかし、食道はこの酵素の働きが弱いため集中攻撃を受けやすいのです。

顔が赤くなる体質の人は、酵素の活性が生まれつき弱いといわれています。こうした人がヘビースモーカーで、かつ飲酒量が増えると食道がんを発症するリスクが特に高くなります。発症年齢は50歳、女性よりも男性に多いがんです。「喫煙」「飲酒」「50歳以上」、この三つに該当する人は要注意です。

胃がん検診で発見も

食道がんのうち、がんが粘膜内に留まるがんを「早期がん」、粘膜下層に及ぶと「表在がん」、さらに深い層まで進んだがんを「進行がん」と呼びます。表在がんの約6割は無症状で、胸痛、違和感、嚥下(えんげ)困難などの症状がある人は約1割です。一方、進行がんでは7割以上の人が嚥下困難など何らかの症状を訴えます。

がんの初期に自覚症状はほとんどありません。「飲食物を飲み込んだときに胸の奥がチクチク痛む」「熱いものを飲み込んだ時にしみる感じがする」といった症状は一時的に消えることもありますが、早期発見につながる可能性があります。見逃さないよう注意してください。最近は内視鏡を使った胃がん検診や人間ドックの際に見つかるケースも増えています。

内視鏡切除で食道温存

治療は大きく分けて四つ、内視鏡的切除術、手術、放射線治療、薬物療法(化学療法)です。それぞれの特長を生かしながら単独、または組み合わせて行います。今ある治療法の中で最も有効な治療法として信頼性の高い「標準治療」は、がんの進行度によって異なります。

がんが粘膜に留まっている0期(=早期がん)は、内視鏡的切除術でがんを取り除くので食道が温存できます。表在がんや進行がんまで進んだ場合は、手術で食道を摘出します。切除後は胃(または腸)を使って食物の新しい通路をつくる手術(再建術)を行います。7、8時間かかる大きな手術ですが、最近は胸腔鏡下手術が実施されるようになり、以前の開胸手術に比べて患者さんの体への負担は軽減されました。ただし肺の機能低下などで適応外になる人も少なくありません。その場合は放射線療法と化学療法、二つを組み合わせた化学放射線療法などを検討します。緩和ケアを含めて詳しくは国立がん研究センターのホームページと小冊子「がん情報サービス」を参考にしてください。

他のがんと同様、食道がんも早期発見、早期治療が何よりも大切です。気になる症状があったら見逃さない、放置しないで医療機関を受診しましょう。

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