がんの免疫療法は
夢の薬?
群馬大学院腫瘍センター
塚本 憲史さん
がんの三大治療といえば、手術(外科治療)、放射線治療と抗がん剤治療ですが、近年は「第4の治療」として免疫療法が注目を集めています。発売当初、高額な薬価が話題となったオプジーボもその一つです。群馬大医学部附属病院腫瘍センター長の塚本憲史さんは「長年研究が行われてきたがんの免疫療法には、効果の有無を含めてさまざまな種類があることをまずは知ってほしい」と呼び掛けます。
免疫力でがん細胞を排除
私たちの体には細菌やウイルスなど異物の侵入を防いだり、進入してきた異物を排除する力(抵抗力)が備わっています。この仕組みを「免疫」と呼び、中心的な役割を果たしているのが血液の中にある免疫細胞の一つ、白血球です。がん細胞も異物の一つで、免疫の力だけでは排除しきれないことがあります。免疫療法は、体の免疫を強めることでがん細胞を排除する治療法です。
これまで多くの研究が行われてきましたが、残念ながら思うような効果は出ませんでした。画期的な免疫治療の道が切り開かれるきっかけは、1992年の本庶佑・京都大名誉教授による研究です。免疫細胞の一つ、T細胞の表面に「PD-1」という免疫の働きを抑える分子(免疫チェックポイント)を発見し、この研究がノーベル医学賞の受賞にもつながりました。
ブレーキ外して力を発揮
体内にがん細胞があるとT細胞の免疫作用が働きます。一方で、がん細胞も攻撃されないように「PD-L1」という分子を作り出し、T細胞の「PD-1」と結合して免疫機能にブレーキをかけます。「(免疫から逃れるために)がん細胞がかけたブレーキを外さないことには、本来の免疫の力は発揮できない」─。このメカニズムが解明されたことで、新たな免疫療法の薬「免疫チェックポイント阻害薬」が誕生したのです=イラスト参照。最初に開発された薬がニボルマブ(商品名オプジーボ)です。世界に先駆けて日本で承認され、2014年7月に皮膚がんの一種「悪性黒色腫」に対して保険適用になった後、肺がん(非小細胞肺がん)や腎細胞がんなどに対象が広がっています。
その後も免疫にブレーキをかける分子、逆にブレーキを外す分子がそれぞれ複数見つかっており、免疫チェックポイント阻害薬の研究開発は世界各国で進んでいます。国内では複数の新薬が保険適用になり、承認を目指した臨床試験も行われています。
未承認薬も多数存在する
「オプジーボのような免疫療法(免疫チェックポイント薬)は、がんが消える夢の薬」と思っている人もいますが、それは誤解です。確かに従来の抗がん薬治療が効かなかった人に対して有効というデータは出ていますが、必ずしも全員に効くわけではありません。副作用もあります。発症頻度は低いものの、時に重症化し、一生ついて回ることもあるので注意が必要です。
「第4の治療法」と期待されているのは、国に承認された免疫チェックポイント阻害薬など一部の免疫療法です。一方で「がん細胞に反応する免疫細胞(リンパ球)を増やす」などといった、未承認の免疫療法も多数存在します。これらは自由診療で治療費用の全額が自己負担となり、本当に効果があるかどうかの検証もされていません。
一つの治療法を確立するまでに、多くの場合は10年以上かけて臨床試験を行います。「有効性と安全性が確認されている薬」だからこそ、国が承認し、保険適用となっているのです。一口にがんの免疫療法といっても種類はさまざま。詳しくは国立がん研究センターホームページ「がん情報サービス」の「免疫療法」を参照し、主治医ともよく相談してください。