甘~い冬の
味覚を堪能して
サツマイモの食べ方はいろいろある。中でも代表的なのが、冬の季語にもなっている焼き芋。息を吹きかけ、冷ましながら頬張るときの食感や甘さはたまらない。もう一つ、冬の味覚として定着している干し芋も幅広い世代に人気がある。サツマイモは加熱しても壊れにくいビタミンCや食物繊維などを多く含んでいる。栄養面に加え、手軽に食べられるのも魅力的だ。
県の北西部に位置する中之条町の沢田地区。農道沿いの畑地に十数棟のビニールハウスが建っている。そのうちの1棟、長さ45mの広大なハウス内をのぞいた。干し芋が金網の上にびっしり並んでいる。あたかも黄金色の帯を長く広げたような見事な光景に、しばし目を奪われた。
「干し芋作りは今がピークです」と田村さん。腰の高さに並ぶ干し芋を、一つ一つ丁寧に反転させていく。万遍なく日に当てるためで、3週間ほど天日干しすることによってキツネ色に変化し、甘みも増すという。
原材料のサツマイモの品種は、主力の「タマユタカ」と「シルクスイート」の2種類。株式会社化した農園を経営する田村さんは、30人近いパートや従業員とともにサツマイモの栽培から干し芋の製造・販売まで一貫して行っている。「イモの6次産業化を実践しています」と力強く語る。
「栽培」から「加工」まで
田村さんが農家を継いだのは25歳のとき。大学でバイオテクノロジーを学び、水産系の会社に就職したが、1年で退職。県の農業試験場(当時)でコンニャク栽培を勉強した後、農業の道を歩み始めた。
「父親の時代はコンニャク栽培が中心でしたが、いまは干し芋とショウガを主力に、各種野菜やコメを1年通して生産しています」
30aから始めたサツマイモの栽培面積は7.5haに拡大、年間約150tを収穫している。秋に収穫したサツマイモはパイプハウス内に積み上げ、腐敗防止のためのキュアリング処理を行い、温度管理をしながら貯蔵する。
干し芋の加工は12月に始まる。水洗いした後、厚めに皮をむき、たるに入れてあく抜き。続いてせいろで3~5時間かけてじっくり蒸し、素早く乾燥場に運び、金網に並べる。「手順に従って効率よく分担して作業を行っています」と田村さん。貯蔵しているサツマイモがなくなるまで、作業は3月末まで続く。
商品名は「いもっ娘」
干し芋には、サツマイモを薄くスライスした「切り干し」と、2~3等分あるいはそのまま干す「丸干し」の2つのタイプがある。田村さんは当初から食べ応えのある「丸干し」作りを貫いている。
味はサツマイモの品種によって異なる。主力の「タマユタカ」は甘すぎず芋の味を堪能でき、「シルクスイート」は洋菓子のように甘くておいしい。どちらも袋詰めして「いもっ娘(こ)」の商品名で出荷している。毎日、サツマイモを1.5~2.0tペースで加工しているが、天日干しに時間がかかる上、手作りの味が人気で、生産が追いつかないという。
干し芋を本県の特産品に育てようと、一昨年に県の「ぐんまの干しイモ ステップアップ!プロジェクト」がスタート。運営委員長を務める田村さんは、研修会やフォーラムで技術指導などに力を注ぐ。「たくさんの生産者仲間を増やし、一緒に汗を流していきたい」と話している。
元気な暮らしに役立つ栄養のお話…笠原 賀子
NPO法人ヘルス・コミュニケーションズ理事長
自然の恵みがいっぱい!
おいしくて栄養たっぷり
サツマイモの魅力
老若男女を問わず万人に人気のあるサツマイモ。焼き芋、ふかし芋、干し芋、大学芋にスイートポテトなど。芋焼酎が一番だという声も聞こえてきそうですが、何とも言えない自然な甘みがおいしさを醸し出します。
由来
サツマイモの原産地は南米のメキシコ南部からペルーにかけてと言われています。わが国には、フィリピンから中国を経て沖縄(琉球)に伝わったイモを、船乗りの前田利右衛門が薩摩に持ち帰り、その後、青木昆陽が、飢饉の備えとして痩せ地でも育つサツマイモを全国に広めたことで有名です。その由来から、琉球薯、唐芋とも呼ばれ、また、甘い芋という意味で正式には甘藷と言います。
栄養
サツマイモは糖質が多くて甘みが強く、便秘を解消する不溶性食物繊維をはじめ、抗酸化作用の高いビタミンA、E、エネルギー代謝を改善するビタミンB1、加熱しても壊れにくいビタミンCが多く含まれています。骨や歯を丈夫にするカルシウムや高血圧の予防に有効なカリウムなども豊富です。しかし、たんぱく質が少ないため、チーズやヨーグルトなど、良質のたんぱく質を多く含む食品などと組み合わせると栄養価もアップします。食糧難の頃、ふかし芋に煮干しをかじっていたのは、理にかなった食べ方だったのですね。
また、サツマイモを食べると太るイメージがありますが、サツマイモの70%近くは水分で、100g当たりのエネルギーは、ご飯(軽く1杯)168kcalより低いのが特徴です。とは言うものの、食べ過ぎはやはり禁物です。
特殊な成分
唯一サツマイモにしか含まれていない成分ヤラピンは、ヤラピノール酸とオリゴ糖からなるヤニ質の樹脂配糖体で、生のサツマイモを切ると出てくる白い乳液状の液体のことです。手につくと黒くなりますが、腸の蠕動運動を促進し、便を軟らかくする緩下作用があります。サツマイモが便秘に効果的なのは、このヤラピンと食物繊維の相乗効果のためと言われています。
さらに、サツマイモに含まれるポリフェノールは主にクロロゲン酸で、抗酸化作用が強く、糖の吸収や脂肪の蓄積を抑える効果をはじめ、メラニンの生成を阻害する作用もあります。紫芋や紅芋には、同じく、抗酸化作用の強いアントシアニンが含まれています。
また、がん細胞の増殖を抑える働きのあるガングリオシドという成分も含まれています。
上手な食べ方
60℃程度でじっくりと時間をかけて加熱すると、サツマイモに含まれる「アミラーゼ」という酵素によって、でんぷんが麦芽糖に変わるため、よりおいしくなります。保存食として生まれた干し芋は、サツマイモを蒸して乾燥させたもので、サツマイモの持つ甘みが凝縮されています。サツマイモの栄養は、皮、または実と皮の間に多く含まれていますので、皮をむいて食べるのはモッタイナイですね。