腰痛と上手に
付き合おう
群馬大病院整形外科
筑田 博隆さん
年齢を問わず多くの人が一度は経験したことのあるぎっくり腰、加齢とともに増える慢性腰痛など、若い世代から高齢者まで腰痛に悩む人は多い。中には「年のせいだから」と放置して、重症化する恐れがあるケースもある。腰痛とうまく付き合うにはどうしたらよいか。群馬大医学部附属病院整形外科教授、筑田博隆さんは「痛み止めをうまく使って、安静にし過ぎないことが大切」と助言する。
過度な安静で長期化も
腰痛は大きく急性と慢性に分かれます。ぎっくり腰は急性腰痛の代表で、症状は1週間程度で良くなります。かつては「安静にする」「コルセットを装着して大事にする」といわれていましたが、「過度に安静にしない」「通常の活動を保つ」などが慢性化させないために重要です。もちろん強い痛みがあるときは薬を飲んで、数日間休むことは問題ありません。
一方の慢性の痛みは、生活習慣によるものや急性腰痛が慢性化している場合が大半を占めます。急性と同様、ある程度まで痛みが和らいだらできるだけ日常の生活に戻った方が長期化させないためにも良いと考えられています。「薬でしっかり治してから…」という完璧主義的な考え方がかえってあだになるので気を付けましょう。
薬(痛み止め)の選択肢も広がっています。以前は消炎鎮痛剤だけでしたが、例えば自分自身が持つ「痛みを和らげる作用」を増強する薬のような、さまざまな種類の薬が使えるようになりました。
画像検査で的確な診断
痛みが長引いてなかなか取れない場合は、骨や軟骨、脊椎などに何らかの要因(器質性の要因)があるかどうか検査する必要があります。画像検査には、①エックス線(レントゲン)②MRI(磁気共鳴画像装置)③CT(コンピューター断層撮影)-の三つ。それぞれに得意分野があります。
薬を飲んでから1、2カ月たっても痛みが落ち着かないときは、こうした画像検査をすることが大切です。検査で大きな問題がなければ、さらに様子を見てください。接骨院に通う人も多くいますが、そこで痛みが治まらない場合も医療機関を受診することが望ましいと思います。
骨粗鬆症から圧迫骨折
強い痛みが1、2週間たっても一向に良くならない場合は、器質性の疾患が疑われます。特に痛みに加えて脚のしびれや痛みなどの症状があると椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の可能性があります。診断には画像検査が必要です。
注意してほしいのは「圧迫骨折」「化膿性脊椎炎・化膿性椎間板炎」と「がんの転移」です。その中で、前者二つについて説明します。
圧迫骨折は骨粗鬆症がベースになって起こることが多い疾患です。背中に強い痛みがあるときは圧迫骨折を疑い、骨がしっかり付いていることを確認するまで通院することが肝心です。何らかの拍子にもろくなった骨がつぶれるのですが、痛みが出た直後はレントゲンで見ても骨折が分からないことがあります。「尻もちをついた」などのきっかけが無くても発症します。リスクが高いのは閉経後の女性、リウマチなどでステロイドの薬を飲んでいる人、透析をしている人、極端にやせている人などです。また、骨粗鬆症の薬は人によって効き方が違うので注意してください。圧迫骨折の予防には、定期的に骨密度をチェックして骨を強くすることが大切です。
強い痛みと高熱に注意
化膿性脊椎炎と化膿性椎間板炎は、血液を介して背骨の椎間板、または背骨そのものにばい菌が感染した状態です。非常に強い痛みと熱が出るのが特徴で、診断が遅れると長期入院や手術を余儀なくされます。悪化すると背骨が破壊され、神経が圧迫されて足が動かなくなる人もいます。
体が弱っている時に起こる疾患で、高齢化とともに増えています。特に糖尿病や腎臓病などの持病がある人は腰痛を侮ってはいけません。症状が出たらなるべく早く受診して、その際に持病(病歴)と発熱をしっかり伝えることが大切です。血液検査とMRIで診断が付き、早期発見して治療すれば悪化せずに治ります。