寒さに強い
葉物野菜
寒さに強い葉物野菜の一つにコマツナがある。霜にあたるほど柔らかくなり、甘みが増しておいしくなる。雪の下でも枯れることがないので、雪菜や冬菜などとも呼ばれている。ハウス栽培が盛んになり、通年で出回るようになったが、冬から春にかけて収穫された旬のコマツナはやはり一味違う。β-カロテンやカルシウムなど栄養素も豊富だ。お好みの調理法で、ぜひご家庭の食卓に!
小玉スイカの施設栽培が盛んな太田市では、同じハウスを流用したホウレンソウやコマツナ作りも活発に行われている。「周年で収穫できるのが一番の魅力です」と後藤さん。5年前からコマツナの栽培に力を入れている。
平たんな畑地に建ち並ぶビニールハウス。そのうちの1棟をのぞくと、25cm前後に育ったコマツナが、鮮やかなウグイス色のグリーンベルトを形成している。「冬~春用に種をまいた『なかまち』という品種です」と後藤さんが教えてくれた。
毎日、午前中に収穫作業を行い、午後は出荷のための袋詰めがスケジュールになっている。鎌を手にハウス内に入った後藤さんは、妻の幸子さん(60)やインドネシアからの技能実習生5人とともに収穫に専念。根元から切り取ったコマツナを、次々とコンテナに入れていく。収量は半日でコンテナ100個分以上になるという。
60棟のハウスで栽培
以前は後藤さんの家でも、特産の小玉スイカとホウレンソウの栽培が主力だった。しかし、平成26年の豪雪でハウス60棟の7割が倒壊。これを機に、ホウレンソウからコマツナにすべて転作することを決意した。
「ホウレンソウは暑さに弱いため、夏場の栽培管理が難しく収量も不安定。それに比べて、コマツナは暑さや寒さに強く、ほぼ1年を通して安定的に収穫できます」と後藤さん。出荷調整や実習生のカリキュラムを確保する上でもコマツナは好都合だったようだ。
ハウスの数はスイカの時と同じ60棟で、栽培面積は1.3ha。これに秋の露地栽培0.9haを加えると、延べ2.2haになる。栽培品種は「なかまち」のほかに、真冬が「冬里」、真夏が「里きらり」というように、季節に合わせて育てやすい5品種を使い分けている。
農業を継いだとき、後藤さんはスイカやホウレンソウの栽培技術を父親から学んだ。そのノウハウは、同じハウス栽培のコマツナにも生かされている。
土づくりがポイント
コマツナの生育日数は、高温期が25~30日、低温期は60~70日なので、計算上は同じハウスで年に5、6回の収穫が可能だ。しかし、後藤さんは品質および収量のアップと、連作障害を避けるため、夏場に休耕期間を設けて2~4回に抑え、その間は主にモロヘイヤを栽培している。
「野菜は土づくりが一番のポイントです」と後藤さん。年2回は堆肥を入れ、土壌消毒を行うなど、土づくりをしっかり行っている。また、JA太田市こまつ菜部会の副部会長という立場から、会員の栽培技術の向上や出荷作物の品質向上に力を注ぐ。「栽培講習会を開いたり、他県の農場視察に出かけたりしています」
母屋の隣にある作業場で、実習生が袋詰めしたコマツナは、すべてJAに出荷している。食べ方は、炒め物やおひたし、漬物、みそ汁の具などいろいろだが、「私のおすすめは“ベーコン炒め”です」と後藤さんは話している。
元気な暮らしに役立つ栄養のお話…荒井 勝巳
桐生大学医療保健学部栄養学科准教授
緑黄色野菜の中でも
栄養価は
トップクラス!
コマツナは、アブラナ科アブラナ属の1年生の緑黄色野菜で、収穫せずにそのままにしておくとアブラナと同じ黄色い花を咲かせます。また、ふゆな(冬菜)、ゆきな(雪菜)、うぐいすななど季節や地域によって異なる呼び名で親しまれています。すじっぽさや野菜独特のえぐ味や苦味も少ないため、さまざまな料理に活用でき、緑黄色野菜の中でも栄養価の高さは群を抜いています。
栄養
コマツナとホウレンソウは見た目も栄養価(表1)もよく似ています。しかし、ホウレンソウには“シュウ酸”と呼ばれるアクの成分が含まれているため、ゆでたり、炒めたりなど調理をする必要があります。コマツナにはシュウ酸はわずかしか含まれていないため、生でも食べられることから、調理によるビタミンやミネラルなどの損失を防ぐことができます。なかでもホウレンソウと比べて特に多く含まれている栄養成分として鉄とカルシウムが挙げられます。
鉄はホウレンソウの約1.5倍含まれており、貧血の予防に有効的であることが知られています。野菜に含まれる鉄(非ヘム鉄)は、肉や魚に含まれる鉄(ヘム鉄)に比べて吸収率が低いのですが、鉄の吸収を高める働きのあるビタミンCも多く含んでいることから鉄のよい供給源といえます。
骨や歯を丈夫にするために必要なカルシウムについては、ホウレンソウの約3.5倍含まれています。ホウレンソウに含まれるシュウ酸は、カルシウムと結合してシュウ酸カルシウムという塩を形成し、吸収率を大幅に低下させます。コマツナにはシュウ酸がほとんど含まれず、また、骨に存在するオステオカルシンというたんぱく質を活性化し、カルシウムを骨に沈着させて骨の形成を促すことが知られているビタミンKを多く含むことからも、カルシウムの供給源として期待されます。
名前の由来
江戸時代中期以降に武蔵国葛飾郡小松川村(東京都江戸川区西部)で作られていたことから「小松菜」という名前になったといわれています。8代将軍である徳川吉宗が鷹狩りで小松川を訪れた際、すまし汁に入った青菜を気に入り、地名にちなんで命名したとも伝わっています。現在は品種改良やさまざまな地域で1年中栽培されているコマツナですが、旬は12月から2月の寒い時期であり、江戸庶民にとって重要な冬の野菜として親しまれてきました。ひたし物、汁の実、正月の雑煮などにもよく使われ、春まきのものは、つまみ菜として、特に「うぐいすな」とも呼ばれています。