「百薬の長」も 適量に
酵母の力で リラックス

夏の宵、風呂上がりに飲むビールの味は格別だ。アルコール好きには至福の時だろう。ビールに含まれるホップにはリラックス効果があり、乾燥したものは薬用ハーブとしてホップティーや入浴剤などに利用されている。また、ホップから出る苦味は、胃腸の消化液や唾液の分泌を促す働きがある。まさに「酒は百薬の長」だが、それはあくまで適量範囲でのこと。やはり飲み過ぎにはご注意を。

県北の風光明媚なみなかみ町に、ガラスアートの観光施設「月夜野びーどろパーク」がある。その一角にビール醸造所を併設したビア&レストランがあり、「月夜野クラフトビール」を生産・販売している。

「利根川源流の清らかな水と本県産の麦芽100%でできた、香味とこくのある味わい深いビールです」と、ブルワーの斎藤さんは自信たっぷりに語る。

醸造のスタートは、地ビールがブームになり始めた1997年。当時、月夜野町はボヘミアンガラスで知られるチェコ東部の町と姉妹都市提携をしていた。これが縁で、同国のブルワリーから醸造技術を伝授してもらうことができた。

「ここに並んでいる仕込み装置もチェコ製です」と斎藤さん。仕込み作業の様子は、レストランのテーブル席からもガラス越しに見られるようになっている。


ドイツで醸造技術学ぶ

北海道出身の斎藤さんがブルワーを目指したのは23歳のとき。単身でドイツに渡り、ブルワリーで働きながら本場のビール造りを学び、伝統的な技術を身につけた。

12年後に帰国。その後「月夜野クラフトビール」の醸造を行うようになった。

現在、手掛けているビールの種類は「ピルスナー」「ヴァイツェン」「ブラウンエール」「シュヴァルツ」の4種類で、四季を通して楽しめる味。醸造に必要な原料は麦芽、ホップ、水、酵母が基本。麦芽の種類や酵母の発酵温度、ろ過の有無などによって独特の味や色、香りを造り出す。

斎藤さんは豊富な経験から、おいしくて高品質なビール造りに打ち込んでいる。そのかいあってジャパン・グレート・ビア・アワーズ2019で4種類が金・銀・銅の各賞に、オーストラリアン・インターナショナル・ビア・アワーズ2019で2種類が銅賞に輝いた。

「県産」の酵母使う

常に前向きに新たな挑戦を続ける斎藤さん。日頃の開発努力は新商品として花開いた。今月発売された「プリンセスマーチ・ロナ」で、初めて県産イチゴの「やよいひめ」から採取した酵母を使って仕込みを行った。

甘い香りを出すために県産麦芽をぜいたくに使い、苦味を最小限に抑えるなど試行錯誤。アロマホップをブレンドすることで新しい香りを生み出し、フルーティーな香りに仕上がったという。

「将来的にはホップも群馬県産にし、オール群馬のビールを造りたい」と斎藤さん。商品名の「プリンセスマーチ」は「やよいひめ」を英語に直訳したもので、今後は「『プリンセスマーチ』のブランド化に力を注ぎたい」と話している。


元気な暮らしに役立つ 栄養のお話
高崎健康福祉大学
大学院食品栄養学専攻教授

松岡 寛樹

はじめに

ドイツではビール純粋令により、大麦麦芽、ホップ、酵母、水以外の原料が含まれているものはビールとして販売することができない。しかし、日本を含む他の諸外国では、小麦麦芽やさまざまな副原料(フルーツやバーレーシロップなど)を用いることで個性のあるビール造りが行われている。また、原料だけでなく、大麦麦芽の焙煎法や発酵法によっても風味に違いが生じる。

発酵方法

ビールは麦芽、ホップ、水を原料として酵母で発酵させて製造する。ビール製造は、次の4つの工程、①製麦 ②糖化 ③発酵 ④ビン詰めに分けられる。清酒製造とは異なり、糖化工程と発酵工程が明確に分離されている。糖化工程は、麦芽アミラーゼにより、デンプンを分解しグルコースをつくること、続く発酵工程では酵母によりグルコースからアルコールをつくることを目的として行われる。発酵法は上面発酵、下面発酵、そして自然発酵に分類される。上面発酵では発酵が進むにつれて液面上方に酵母が浮いていくのに対し、下面発酵では酵母が沈んでいく。また、前者はエールビールと呼ばれ、発酵温度が高くなる。後者をラガービールと呼び、低温で発酵させる。大手のビールメーカーが製造しているのは、ラガービールになる。エールビールはまだなじみが薄いが、香りが華やかになる。

自然発酵

風味は普通のビールより複雑で、やや酸味があるのが特徴。自然発酵ビールは、その醸造所にすみつく微生物の力を借りて作られる。現在では、ベルギーにあるランビックビールと呼ばれるものがそれにあたる。

栄養成分

表1にビールの栄養成分値を示した。エネルギーは40~63kcal/100gと高く、中ビン1本(500ml)と、茶わん一杯のご飯(普通盛り150gで約250kcal)がほぼ同じになる。

ホップには、ポリフェノールが含まれており、抗酸化作用、抗菌、催眠、健胃、食欲増進などの効果が認められている。また、香りにはストレスを解消する効果もある。麦芽にはビタミンB群やミネラル、酵母にはアミノ酸や食物繊維などが含まれている。

ビールはあくまで嗜好飲料であることを忘れずに。

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