心に寄り添うケアを

公立富岡総合病院助産師 野々下 可奈子さん

分娩(ぶんべん)の補助や妊産婦への保健指導、産後の母子のケア、母乳指導などを担う助産師。妊産婦はもちろん、その家族にとっても心強い存在だ。働き方や家族のかたちが多様化する中、お産や子育てに関する悩みもさまざま。公立富岡総合病院の助産師・野々下可奈子さん(34)は、院内や地域の関係機関と連携を図りながら、不安を抱える女性の心に寄り添う看護を目指している。

母乳指導をする野々下さん

新生児の生命力に驚く

子どもや人の世話が好きで、作業療法士か看護師を目指そうと考えていた高校生の時、県看護協会が主催する「ふれあい看護体験」に参加した。その時お世話になったのが、現在勤めている産婦人科病棟。赤ちゃんは弱々しいものと思い込んでいたが、沐浴(もくよく)体験を通じて、その力強さとあふれる生命力に驚いた。同時に、女性が輝いている現場だった。「この仕事に携わりたい」と強く思い、助産師になるための大学を選んだ。

報われる瞬間のために

妊産じょく婦と新生児のケア、外来の妊婦健診、母親・両親学級、マタニティーヨガ、母乳指導、産婦人科の病棟勤務など、仕事は多岐にわたる。通常、分娩で子どもを取り上げるのは医師でなく助産師だ。陣痛や本人の様子、赤ちゃんの向きや心音を見ながら、分娩が順調か、医療介入が必要なのかも判断しなければならない。さまざまな疾患を抱えて出産に臨む人もおり、産科・小児科に加え、他科の医師と連携を図るケースも。一つとして同じ分娩はなく、分娩は母児の命に関わることもあるため、判断は怖い。だからこそしっかりと学び、スタッフとカンファレンスを重ねながら、一回一回の分娩に神聖な気持ちで向き合っている。「でも、おめでとうと言った瞬間に全て報われる」

育児する力を引き出す

近年は核家族化などで母親の孤立が問題となり、地域の支援による産前・産後ケアが重要視されている。助産師も保健師や関係機関と連携を図り、自信を持って育児に取り組める状態で地域に帰すことを目指す。孤立は、虐待や自死につながる恐れもある。「虐待をなくすために助産師になった仲間もいる。限界もあるが、関われる範囲でできる限りを尽くしたい」。母乳不足や家族との関係など、育児は悩みとストレスの連続だ。「上からの押し付けや指導する形では、追い込んでしまうだけ。共感し、本人の育児する力を引き出せるようなサポートを心掛けている」。

妊娠出産だけでなく、思春期や更年期の健康問題、婦人科系の疾患にも携わる仕事。ケアする立場だが、患者との関わりの中で学ぶことも多いという。「経験を重ね、女性の一生を包括的にみられるような助産師に」と、さらなる成長を思い描いている。

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