味覚の秋を彩るリンゴ
健康の維持増進に

赤く色づいたリンゴの実の熟度をチェックする原沢さん

本県は関東一のリンゴの産地。昼夜の温度差や日照時間の長さなど、果樹栽培に良好な条件がそろっており、さまざまな種類の良質なリンゴが栽培されている。おなじみの「ぐんま名月」や「陽光」など、本県の育成品種もたくさんある。3年前に品種登録された「紅鶴」もその一つで、今年初めてお目見えした。ぜひ観光農園を訪れ、もぎたての味をじっくり堪能してほしい。

新治高原りんごの郷。その山あいのなだらかな斜面を、たくさんのリンゴの木が長く伸びた枝で覆っている。樹齢50年以上の大木が何本もある。枝の一本一本に赤く色付いたリンゴがたわわに実り、青空との美しいコントラストを見せている。

「2haの畑に300本のリンゴの木が植わっています」と、農園を切り盛りする原沢さん。「これから本格的なリンゴ狩りのシーズンを迎え忙しくなります」と言いながら、実を手に取って成長ぶりを入念にチェックする。

栽培品種は20種類を超える。「ふじ」が最も多いが、「おぜの紅」や「陽光」など本県の育成品種をすべてそろえる。「種類によって味が違うので、いろいろな品種を食べ比べていただきたい」と原沢さん。新品種の「紅鶴」は、まだ木が小さく実の数も少ないが、適度な酸味と甘みとのバランスがよく食味に優れており、「人気の品種になるのでは」と話す。

リンゴをスライスして作ったドライフルーツ

講習会で栽培技術磨く

原沢さんが農園の仕事に携わるようになったのは15年ほど前から。農園代表の貞和さん(49)との結婚後、子育てに専念していたが、次女の幼稚園の入園を機に手伝い始めた。

原沢さんの農園では、リンゴ狩りのほかにマス釣りや、地元産の野菜が入った煮込みうどんなどを提供している。

貞和さんが会社勤めをしているため、休日以外は原沢さんが1人で果樹の世話から接客まですべてをこなす。「大学時代は農学部でしたが、果樹栽培の実務は経験したことがなく戸惑うことばかりです」と苦笑する。

最も難しいのは冬季の枝のせん定だという。「どの枝を落としたらよいか、リンゴの品種によっても違うので、見極めるのが大変です」と話す。栽培技術講習会に参加するなど、技術向上に積極的に取り組む。

6次産業化で新商品開発

農園では、以前から農閑期に加工したリンゴジャムや梅干し、からし漬けなどを製造販売してきた。作り手の中心だった義母が亡くなった後は、原沢さんが製造法などを受け継いで、伝統の味を守り続けている。

7年前、県主催の「ぐんま農業フロントランナー養成塾」に参加したのをきっかけに、6次産業化へ本格参入。スチームコンベクションオーブンと常温対応の乾燥機を導入し、リンゴのコンポートやドライフルーツを開発した。「常温でドライ化するため栄養素の損失が少なく、加糖もしないので健康的です」と原沢さん。リンゴ100%で無添加の「すりおろしリンゴジュース」など他の加工品とともに、自信を持って提供している。

「来園者が皆楽しく幸せになれる農園づくりをしたい」と、原沢さんは夢を広げる。

*制作協力/群馬県農政部

元気な暮らしに役立つ 栄養のお話
桐生大学医療保健学部
栄養学科准教授

荒井 勝己

由来

私たちが食べているリンゴはバラ科リンゴ属の樹木になる果実です。原産地はコーカサス、中央アジアで、紀元前6000年頃にはトルコで、紀元前1300年頃にはエジプトで栽培されていたといわれています。現在、日本で食されているリンゴは明治時代に導入され、気候や風土に合わせて品種改良が盛んに行われ、さまざまな品種が生まれています。

特徴的な成分

イギリスのことわざで“An apple a day keeps the doctor away”(1日1個のリンゴが医者を遠ざける)といわれるように、リンゴを1日1個食べると健康に良いとされています。

リンゴには、食物繊維である“ペクチン”が豊富に含まれており、水に溶けるとゼリー状に固まる性質があります。そのため、便秘の改善(水分の少ない便を柔らかくして排便を促進)や下痢のときは、ゼリー状の膜をつくって腸の内壁を守る働きがあります。また、善玉菌であるビフィズス菌がペクチンを食べることで、腸内環境を整える働きもあります。さらに余分なコレステロールや糖、ナトリウムなどが腸内で吸収されることを抑えるため、血中コレステロール値の低下や血糖値の急激な上昇の抑制、高血圧の予防などにも効果があります。

リンゴの皮には特にプロシアニジン(ポリフェノールの一種)が多く含まれており、抗酸化作用や薬物代謝促進作用、糖や脂質の代謝促進による高血糖や肥満・脂肪蓄積抑制効果など、健康の維持増進に及ぼす効果が報告されています。

保存方法

リンゴは植物の熟成を促進する効果のある植物ホルモンの“エチレン”を大量に発生させます。そのため、リンゴ自身も熟成が進むのと同時に、他の果物や野菜にも影響を与えるため、一緒に保存するときは注意が必要です。冷蔵庫や密閉性の高い容器などで保存する際には、必ずポリ袋に入れる、あるいはラップでくるむなどして保存してください。逆に、未熟な状態のキウイフルーツやバナナは、エチレンの影響により熟成が促進します。よって、熟成を早めるときは、リンゴと同じ袋に入れて保管するようにすると良いでしょう。

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