歳時に欠かせぬ
食材
効率のよい
エネルギー源
刈り取り作業を手伝う矢端さん
祝儀や祭り事に欠かせない赤飯、雑煮や安倍川などにして食べる餅は、いずれも「もち米」を原材料に作られている。その名の通りモチモチとした食感が魅力で、おはぎや団子、和菓子などのスイーツにも幅広く利用されている。私たち日本人の食卓に身近な食材だが、主食の「うるち米」と同様にカロリーが高いので、いくらおいしくても食べ過ぎないようくれぐれもご注意を。
遠く赤城山を望む前橋市南部の田園地帯。あたり一面、黄金色に染まった田んぼの中を2台のコンバインが大きなエンジン音を響かせて豪快に走り回る。田を覆っていた稲穂が、みるみる刈り取られていく。広大なヤバタファーム(農業生産法人)の農場でも、米の収穫作業が順調に進んでいる。
耕作面積は30ha。このうち1.5haがもち米で、毎年120俵余りを収穫している。栽培品種は本県オリジナル品種の「群馬糯糯5号」。「お餅にすると、やわらかくて甘みと粘りがあり、とてもおいしいです」と、農場まで案内してくれた同ファーム取締役の矢端さんが教えてくれた。
刈り取った籾は素早くトラックに積んで倉庫に運ぶ
現場の作業は、ファームの代表を務める夫の幹男さん(60)と社員3人で行っている。「私は主に販売や事務を担当しています」と矢端さん。汗水流して収穫したおいしい米をいかに消費者の元へ届けるか腐心している。
おいしい米作りに全力
矢端さんは岐阜県の出身。大学を卒業後、JICA青年海外協力隊に参加して、日本語教師としてマレーシアに赴任した。そこで野菜栽培を教えていた幹男さんと知り合い結婚。農家の嫁として農業への第一歩を踏み出した。
「当時、矢端家は40aの豚舎で養豚を行い、1haの田畑で米や野菜を生産。耕作地を広げて機械化を進め、所得向上を目指して頑張っていました」と矢端さん。休耕地を借り受け、徐々に耕作面積を増やしていった。
農薬と化学肥料の使用を極力抑え、手間暇かけて多くの人が喜んでくれる米作りに精を出した。しかし、味には自信があってもはじめはなかなか売れなかった。慣れない販売の難しさをいやというほど味わったという。
餅の商品名は「伝次平」
「いろいろ模索する中で思いついたのが、もち米をそのまま売るのではなく、餅に加工して販売することでした」と矢端さん。
自宅前の豚舎を壊し、工場と店舗を建てた。製造ラインでは洗米から餅つき、切断、真空パック詰めまでを、矢端さんら社員全員で行う。注文以外の一般販売は12月から4月まで。農閑期の仕事として、従業員雇用にも大いに役立っている。
餅の商品名は「伝次平」。幹男さんの父が県の農業に貢献して「船津賞」を受賞したのに由来する。2012年に前橋市優良農産物として「赤城の恵」認証、14年に「グッドデザインぐんま」に選定され、広く知られていった。人気の秘密を「自家生産のおいしいもち米」と考える矢端さん。1次産業の大切さを改めて感じている。
元気な暮らしに
役立つ
栄養のお話
高崎健康福祉大学健康福祉部
健康栄養学科講師
熊倉 慧
品種
もち米は普通の米(うるち米)とは異なり、その名の通り、モチモチとした食感が特徴の米です。もち米は赤飯や餅の材料として、また粉状に加工したものが白玉粉や道明寺粉として利用され、私たちの食生活を豊かにしています。
もち米にもうるち米と同様にさまざまな品種が知られています。水を張った水田で栽培される水稲品種としては、「こがねもち」「はくちょうもち」「ヒヨクモチ」「ヒメノモチ」などがあります。畑で栽培される陸稲品種としては、「トヨハタモチ」「キヨハタモチ」「ゆめのはたもち」などがあります。
食感
もち米の持つ食感は、米に含まれるデンプンの質によるものです。デンプンはグルコースと言われる単糖が鎖のようにつながったものから出来ています。このつながり方の違いにより、アミロース(直鎖状につながったもの)とアミロペクチン(枝分かれの多いもの)に分けられます。うるち米のデンプンは、アミロースとアミロペクチンが約2:8の割合であるのに対して、もち米のデンプンはほとんどアミロペクチンからなります。もち米はアミロースを作る酵素(タンパク質)がその働きを失っていることが知られています。この違いが独特の食感を生んでいます。一般にアミロースを多く含む米の方が、粘りが少なく、硬いという特徴があります。また、うるち米は透き通ったガラス質なのに対し、もち米は白く濁っているため、外観からも見分けることができます。
栄養成分
もち米の大半はデンプンであり、デンプンは消化され、グルコースへと分解、腸から吸収されることで私たちのエネルギーとなります。つまり、もち米は効率のよいエネルギー源ということになります。他の栄養成分としてミネラルではリン、カリウム、マグネシウムを多く含んでいます。マグネシウムの不足は心臓疾患の一因になることが知られています。また、不足が味覚障害を引き起こす亜鉛も含まれます。穀類は必須アミノ酸であるリシンの含有量が少ないことが知られていますが、米は他の穀類に比べてリシン含有量が多いのが特徴です。脂質に着目すると、不飽和脂肪酸であるリノール酸やオレイン酸が主要な脂肪酸としてあげられます。