食卓の王様 「鶏の卵」
完全栄養食品

鶏舎内で鶏の健康状態などをチェックする松岡さん

昔から「物価の優等生」といわれる鶏の卵。養鶏業者のたゆまぬ努力と工夫で、小売価格は長い間ほぼ横ばい状態が続いている。しかも、アミノ酸やビタミン、ミネラルなどの栄養素が豊富なうえ、ゆでたり炒めたり、あるいは生のままでもおいしく食べられる。まさに「食卓の王様」という言葉にふさわしい食材と言えよう。ぜひ毎日食べて、体力づくりや健康維持に役立ててほしい。

榛名山西麓の標高600mの山あいに、採卵を目的とする養鶏業者「三喜鶏園」の養鶏場がある。長さ80mの大きな鶏舎12棟が立ち並び、37万羽の鶏を飼育している。

「鶏は平均26時間に1個の卵を産むので、毎日34万個の卵が採れる計算になります」と農場長の松岡さん。ただし、鶏はとてもデリケートで、鶏舎の温度が上がるなどちょっとした環境の変化で産卵行動が落ちたりする。「鶏にとってストレスを感じない快適な環境を維持することが、産卵を促すうえに大切なのです」と話す。

山あいに立ち並ぶ三喜鶏園の鶏舎。この中で37万羽が飼育されている

鶏舎内はコンピューターで管理。採卵や給餌、除糞、さらに温度や換気まですべて自動で行っている。しかし、機械を操作するのは人間。「私を含め農場のスタッフは、鶏舎を回って鶏の健康状態に常に気を配っています」


徹底した衛生管理

松岡さんが三喜鶏園に入社したのは7年前。それまで金融関係の会社に勤めていたが、実家の父親が経営する養鶏業を手伝ったことがあり、「貴重な経験を生かしたい」という思いもあって転職した。

「ここに来て一番驚いたのは、鶏舎内のオートメーション化です。昔は手作業で餌を与え、採卵などを行っていました。しかし、いまや養鶏業は農業というより“装置産業”といった印象です」

鶏舎で採卵された卵は、出荷に向けGPセンター(選別してパックする施設)に運ばれる。「ここでは徹底した衛生管理の下で作業が行われています」と松岡さん。殻の洗浄から紫外線での殺菌、ひびの入った卵を取り除くための検査、さらに自動血玉検出装置にかけて血液の混じった卵を除去する。続くサイズ別仕分けや包装なども、人工知能ロボットによって行われている。

4種類のブランド卵

飼育している鶏はごく一般的な外国品種で、餌の配合を変えることによって、黄身の色や味、栄養価が異なる4種類のブランド卵を商品として販売している。

殻が白い「もちはだ卵」と「黄味の郷」、殻が赤い「ちゃめっけ卵」と「こだわり雅味」の各2種類。「大自然の中のきれいな空気と水に餌、鶏を見守るスタッフの愛情のおかげで、どれもおいしいです」と松岡さんは自信たっぷり。中でも農場のイチオシは「こだわり雅味」で、通常の卵に比べて30倍のビタミンEと4.5倍のビタミンDを含んでいるという。

三喜鶏園の直営店として2003年にオープンした「たまご市場卵太郎」には、4種類の卵とともにイチオシ卵「こだわり雅味」を使ったプリンやシュークリームなど約10種類の加工品を販売している。「濃厚な卵の味をスイーツでたっぷり楽しんでほしい」と、店長の白石和紀さんは話している。


元気な暮らしに 役立つ 栄養のお話
桐生大学医療保健学部
栄養学科准教授
荒井 勝己

栄養成分

哺乳動物は、母親が摂取する栄養で胎児が成長していくのに対し、鳥など卵生の動物は、外から栄養を得ることなく、主に卵黄の栄養で成長しなければなりません。ふ化するまでに必要な栄養は、ヒトにとっても必要なものであるという考えから、卵は「完全栄養食品」といわれるようになりました。実際に、たんぱく質やビタミン、ミネラルを多く含むことから卵を摂取していれば病気にならないといわれていた時代もあります。

では、不足している栄養素は本当にないのでしょうか?実は、卵にはビタミンCがほとんど含まれていません。それは、鳥は体内でビタミンCを合成することができるため、卵にビタミンCを含ませる必要がないからです。ほとんどの動物は体内でビタミンCを合成することができます。しかし、ヒトはビタミンCを合成することができないため、「ビタミン※」として取り扱われています。

卵殻の色と栄養

卵殻が褐色の卵(赤玉)と白い卵(白玉)が売られていますが、値段を見ると赤玉のほうが高いことが多く、栄養価も高いのですか?という質問をよく受けます。赤玉と白玉の違いは鶏の種類の違いによるものです。通常、羽の色が褐色の鶏が赤玉を産み、羽の色が白い鶏が白玉を産みます。しかし、これには例外もあり、白い羽の鶏が色のついた卵を産むものやその逆もあります。現在では多くの種類の鶏が改良されているため、羽の色と殻の色の関係はほとんど意味をなさなくなってきました。卵殻の色は品種の違いによるだけで、栄養成分にはほとんど差異はありません。ではなぜ、赤玉のほうが価格が高いのでしょうか?それは、鶏の大きさに影響します。赤い羽の鶏のほうが白い羽の鶏よりも大きく、その分飼料を多く食べるため、卵1つ当たりにかかるコストが高いことが影響しています。また、日本では、昔から白玉のほうが流通量が多く、赤玉のほうが珍しかったことや赤玉の卵殻は白玉に比べてやや厚いため、壊れにくく長距離輸送にも耐えられること、また特殊卵の製造に赤玉が使用されていたことなども影響しています。

※ビタミンとは本来生体内で合成されない、もしくは合成されたとしても必要十分量でないため、食品から摂取する必要がある栄養素(有機化合物)で、体内の調整を行う働きがある。

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