注目の "漬物パワー"
漬物にいる 乳酸菌

地下タンクに野沢菜を入れる綿貫さん(左)

食事の箸休めに、あるいはお茶請けや酒のさかなとして、古くから親しまれている漬物。原材料の野菜は大根やキュウリ、ナス、ショウガなど実に多彩で、いろいろな味や食感を楽しむことができる。漬け方も一夜漬け、浅漬けなどいろいろあるが、時間をかけてじっくり漬け込んだものは、健康に良いとされる植物性乳酸菌の発酵食品として、健康志向の人たちからも注目されている。

県北西部の緑豊かな山あいに、あがつま農業協同組合(JAあがつま)の農林産加工工場がある。「沢田の味」として知られる漬物をはじめ、ジュースやジャム、レアチーズケーキなどを、1年を通して生産している。

「漬物は地元で取れた旬の素材を、昔ながらの製法で風味豊かに仕上げており、とても人気があります」と製造担当の綿貫さん。契約栽培の農家から届く野菜の漬け込み作業を、中心となって行っている。

野沢菜を収穫する関さんご夫妻

原材料となる野菜は、3月のフキノトウから11月の野沢菜まで12種類に上る。「野菜の種類や季節によって、漬け方や漬ける期間が異なるため、決して気を抜くことができません」と話す。気温の高い夏場は発酵が早いので、漬け過ぎないよう注意している。


タンクで半年間漬ける

綿貫さんが旧沢田農協(現あがつま農協)に就職したのは20歳のとき。専門学校に在学中、同加工工場のアルバイトでキュウリの塩漬けやシロウリの種抜きなどを手伝ったのが縁で、漬物製造に携わるようになった。「ものづくりは面白いし、やりがいがあると思いました」と当時を振り返る。

仕事場を訪ねたときは、野沢菜の収穫時期と重なり、漬け込み作業がピークを迎えていた。倉庫内の縦・横・深さがいずれも2.5mという大きなコンクリート製の地下タンクに、綿貫さんは同僚と2人で、水洗いした野沢菜を次々と放り込む。少し重ねたところで塩を振ると、その上にさらに野沢菜を重ねていく。「タンクにはおよそ10t入ります」と綿貫さん。塩の量や重ね具合は、経験と勘が頼りだ。

漬け込みが終わると、そのまま冬を越し、春に漬け返しを行う。仕上がりは半年後。「タンクから出して塩抜きし、しょうゆで味付けした後、1cmほどに切ってパック詰めします」。ほとんど手作業で行われている。

乳酸発酵であめ色に

計画している野沢菜の漬け込み量は12t余り。原料は地元の契約栽培農家4軒から、収穫後すぐに届く仕組みになっている。「新鮮なうちに漬ける方が、味よく仕上がりますから」と綿貫さん。

農家の1人、関勉さん(70)は、7年前から野沢菜を栽培している。栽培面積は18a。9月の種まきから50日余りで、70~80cmまで成長した。「台風の影響で倒れたものもあったが、まずまずの出来です」と関さん。放射状に伸びた茎を、根元から包丁で切り取っていく。妻の玉枝さん(70)がそれを集めて、出荷しやすいように束ねる。二人三脚で「沢田の味」を支えている。

収穫したばかりの野沢菜は葉が青々としているが、タンク内で乳酸発酵が進むと、あめ色に変化する。「大地の恵みを発酵食品としてぜひ味わって」と綿貫さんは話している。


元気な暮らしに 役立つ 栄養のお話
高崎健康福祉大学農学部
生物生産学科教授
岡田 早苗

漬物の味

漬物は昔から野菜を保存するための一つの手段でした。生活の中では、ごはんのおかずや一息つく時のお茶のお供に漬物が登場します。漬物の味、しょっぱさ(塩味)とすっぱさ(酸味)は、おいしさのためにも保存性を保つためにも欠かせません。塩は人の手で加えられますが、酸味は目に見えない乳酸菌によってつくられます。

乳酸菌の特性

乳酸菌と聞くと、ヨーグルトなどのミルクを原料とした発酵乳製品を思い浮かべる方が多いと思います。ヨーグルトと漬物のどちらも酸っぱさがありますが、その酸味成分は同じ乳酸です。原料に含まれる糖分が乳酸菌により分解されてつくられることも同じです。したがって漬物にもたくさんの乳酸菌がすみ着いていて、その数はヨーグルトと同等あるいはそれ以上です。

漬物とヨーグルト、乳酸菌にとっての活動の場は、双方で環境が大きく異なります(表1)。漬物の乳酸菌は野菜に含まれるポリフェノール類(抗菌成分となる)が多く存在する過酷な環境の中で生き抜いていますが、ヨーグルトの乳酸菌はミルクという栄養分にも恵まれ抗菌成分がない穏やかな環境で生きています。

生きて届く

漬物を食べたとき、乳酸菌は消化管に入ると、まず胃酸や腸液にさらされます。過酷な環境に生きているがために、漬物の多くの乳酸菌は胃酸などに耐えて大腸にまで生きてたどり着くことができます。腸内には数日しか滞在しませんが、漬物を少量でも毎日食べ続けることで乳酸菌を次々送り込むことになり、大腸内に長く滞在させることができます。そうすることで生きた乳酸菌の働きで腸内をきれいに保つことができると考えられます。

症状の軽減

さらに漬物の一部の乳酸菌は、消化管に入って小腸にまでたどり着くと、花粉症などのアレルギー症状を軽減する、あるいはインフルエンザなどの感染症を予防するなどの免疫調節能を発揮してくれることがあります。これらの機能には、乳酸菌は生きていても死んでいても、効能が得られるとされています。植物質を発酵する乳酸菌には結構強力な力を持っているものがいます。

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