魅惑的な
色と香り
イチゴで
免疫力アップ
ハウス内で真っ赤に熟した実を摘み取る保坂さん
紅のような真っ赤な色、とんがり帽子に似た愛らしい形、しっとりとした甘酸っぱい香り。一粒口に含み、そっとかんだ時の口中に広がるジューシーな味も忘れられない。これから出荷のピークを迎えるイチゴは、ビタミンCや葉酸、食物繊維(ペクチン)などを多く含み、栄養面でも優れている。おやつや食後のデザートなどで、イチゴの魅力をたっぷり味わえる季節だ。
赤城山西麓のなだらかな傾斜地に、広大な畑が広がる昭和村。さまざまな野菜が栽培され、「やさい王国」として知られているが、実はイチゴの生産が盛んな土地柄でもある。
栽培を行っている農家は20軒ほど。ピーク時の昭和50年代は100軒を数えた。いずれもハウス栽培で、現在は本県の育成品種「やよいひめ」や「おぜあかりん」を育てて出荷している。
「暖冬のおかげで、生育はとても順調です」と、保坂さんは笑顔で話す。管理しているハウスは11棟。この中で約1万7000本の「やよいひめ」を栽培している。収穫は12月中旬から6月半ばまでの半年間。保坂さんは毎朝、数人のパート従業員とともに全棟を回り、赤く熟した実の摘み取りに汗を流している。「おいしかったよ」という顧客の一言が、一番の励みになるという。
白いストロースノコを敷いてイチゴの実を腐敗から守る
「やよいひめ」誕生に寄与
保坂さんがイチゴ栽培を始めたのは22歳のとき。農家の跡取りとして養蚕や露地野菜作りをしていたが、農閑期は工場で働いたり、神奈川県のみかん農家で収穫を手伝ったりして家計を助けた。
「冬の間、出稼ぎせず農業だけで生活できないか、といろいろ考えた末に思いついたのがイチゴの栽培でした」と当時を振り返る。
4棟のハウスでスタートし、ダナーという品種を主に栽培した。しかし、味の方はいまひとつ自信が持てなかった。そこで「利根沼田地方の気候風土に合った品種の開発を県にお願いしました」と保坂さんは話す。
2003年に「とねほっぺ」という品種が生まれた。さらに改良を重ねて2年後に誕生したのが「やよいひめ」で、保坂さんら数軒の農家が開発に携わった。「県を代表するイチゴが自分たちの畑からできたことは誇りです」
「無加温」でおいしさ追求
「やよいひめ」の魅力は大粒で、食味に優れ、果皮がしっかりしている点だ。特に高い糖度とまろやかな酸味のバランスがよく、多くの人に人気があるのもうなずける。
保坂さんは、さらにイチゴのおいしさを引き出そうと、有機質を施した土作りを行い、地下深くからくみ上げた水を利用。ハウスでの「無加温栽培」も貫いている。無理に暖房せず太陽の熱だけでじっくり育てることで、イチゴがしっかり糖分を蓄えるのだという。「イチゴは手間ひまかけただけおいしくなります」と保坂さん。
収穫や管理、出荷のための選別や包装、宅配の手配などは、妻の洋子さん(70)、長男の貴仁さん(47)みゆきさん(47)夫婦らと手分けをして、家族ぐるみで行っている。貴仁さんは6次産業化でも頑張っており、「やよいひめ」100%のジュースやドライイチゴなどを製品化してイチゴ好きを喜ばせている。
元気な暮らしに
役立つ
栄養のお話
東洋大学食環境科学部
健康栄養学科教授
高橋 東生
由来
最近では、バレンタインのチョコレートを送る際に、生のイチゴをチョコレートでコーティングしたものをパートナーに渡すといったお洒落なものもあるようです。でもイチゴといえば、白いケーキの上に乗っているだけで幸せになりますね。通常流通しているイチゴは、バラ科のオランダイチゴを指しますが、キイチゴ属やヘビイチゴ属を含めることもあります。これらは、「ノイチゴ」と総称することもあります。
野菜か果物か
「野菜」と「果物」の判別できますか?調べてみると「野菜」は「生食または調理して、主に副食用とする草木作物の総称。食べる部位により、葉菜、あるいは葉茎菜・果菜・根菜・花菜に大別される」とあります。「果物」は「草木の果実で食用となるもの」とされています。
野菜の分類・定義はそれぞれの分野の特性に応じて行われており、共通的・統一的なものはないそうです。農林水産省の生産・出荷の統計では、イチゴは栽培方法が苗を植えて1年で収穫する点で一般的な野菜と同じなため、野菜としての取り扱いとなっています。しかし、総務省の家計調査では、生鮮果実に分類されており、健康増進法に基づき策定された「健康日本21」(厚生労働省)の“野菜を350g以上食べましょう!”の中に、イチゴは含みません。時代や背景によってもイチゴの立場が変わるのも面白いです。
栄養成分
今回は、「葉酸」に着目してみました。
葉酸は、サルの血球欠乏症治療因子としてほうれん草の葉から発見された物質です。水溶性のビタミンで、免疫力を高め、ビタミンB12とともに造血にも働きます。葉酸が欠乏すると貧血(巨赤芽球性貧血)のほか、細胞の成長・再生に支障をきたし、胃潰瘍や口内炎・舌炎の原因となります。神経過敏や健忘症、また胎児や乳幼児では発育不全を招くことがあります。食品100g中に含まれる葉酸の量を見てみると、果物類では第3位がイチゴとなっています(表1)。
ドリアン、ライチー、パッションフルーツなどは食べる機会が少ないと思います。また、1回あたりに食べる量を考えてもイチゴを積極的に食べることによって、葉酸の摂取量を増やせるかもしれません。