食卓を彩る キュウリ
ミネラルの 健康効果

ハウス内でキュウリを収穫する秋山さん

本県は全国第2位のキュウリの生産県で、年間5万5400t(2017年)を生産し、首都圏などに出荷している。キュウリは長い間、夏の野菜として親しまれてきたが、施設栽培のおかげで今は一年中店頭に並び、鮮やかなグリーンが食卓を彩る。ビタミンCやカリウムなどの栄養素に加え、血流を促すシトルリンを含んでおり、油と一緒に摂取することで吸収率はぐんとアップする。

広大な平たん地が続く県東部の明和町。温暖な気候と肥沃な土地を利用して、米麦やさまざまな野菜が栽培されている。とりわけ、同町を含む邑楽館林地域はキュウリの栽培が盛んで、県全体の生産量の半分以上を占めている。

施設栽培を手掛ける秋山さんに案内され、ハウス内に入った。温度25~28度、湿度75%前後と、中はまるで真夏のような蒸し暑さ。「キュウリは高温多湿を好むんです」と秋山さん。2年前から環境制御装置を導入するなど、先進的な取り組みを行っている。

促成栽培の収穫期とあって、背丈以上に成長した苗に黄色い花が咲き、大小たくさんの実を付けている。午前中に収穫し、午後は箱詰めに加え、枝の管理や手入れが秋山さんの日課。「休む間がありません」と苦笑する。

収穫したキュウリはその日のうちに箱詰め

栽培に“環境制御”導入

農家の長男に生まれた秋山さんは、農業大学を卒業後、種苗会社で1年間研修を積み、23歳で就農した。「当時はコメも作っていましたが、いまはキュウリ専門です」と話す。

父親から基本的な栽培技術を学び、実践を重ねながら徐々に知識を深めていった。ハウスの数は現在12棟、面積にして延べ30aに及ぶ。栽培品種は、収穫期間の長い(1~6月)促成栽培用が「ニーナZ」、それより収穫期間が短い(8~11月)抑制栽培用が「エクセレント620」の2種類で、いずれも病気に強いのが特長。

作業は両親と妻を加えた家族4人で、手分けをして行っている。「2年前にようやく独り立ちしました」と秋山さんは自信たっぷりに語る。ハウス内の温度や湿度、光合成を助ける二酸化炭素の濃度などを数値化し、キュウリに適した環境を整える環境制御機器の導入時期と重なる。

「節なり会」の会長に

邑楽館林を中心に活動するキュウリ生産者の集まり「節なり会」の会長を務めている。一昨年に結成された同会のメンバーは15人で、若い農業後継者がほとんど。

「私たちの父親世代は、とかく『農業は勘と経験。機械は不要』といった考え方の人が多い」と秋山さん。そんな考えを払拭し、先端技術を取り入れた栽培方法で作業の省力化や効率化を図ろうと、勉強会や研修会を開いている。メンバー同士クラウドを利用し、環境データなどの情報も共有している。こうした努力は、収穫量や品質のアップにつながっている。「以前に比べて収穫は2割ほど増えた気がします」と、秋山さんはうれしそう。

だが、研究すればするほど、キュウリ栽培の奥深さを痛感している。水や肥料、病害虫対策など、注意しなければならないことは山ほどある。「毎日が勉強です。消費者においしいキュウリを届けたい」と前向きだ。


元気な暮らしに 役立つ 栄養のお話
東洋大学食環境科学部
健康栄養学科教授
高橋 東生

栄養価が低いってホント?

キュウリは栄養がないという話を聞いたことはありませんか?確かにギネス記録では、次の記録名で認定をしています。“Least calorific fruit”直訳すると、「カロリーの最も低いフルーツ」ということになります。

ここでいうカロリーとは、人が体内に摂取する物の熱量または人が代謝により消費する熱量のことです。栄養学の分野では、カロリーは生理的熱量(エネルギー)を表す単位(kcal)として用いられています。すなわちカロリーは栄養素のことではありませんので、キュウリの栄養が無いとは言えません。確かに100gあたりの熱量は14kcalなので他の果実類と比べると低いですが、そもそもわが国ではキュウリは果実類ではなく、野菜類としての分類が適切なので、誤った解釈につながったと考えられます。

カリウムと減塩

キュウリのほとんどは水分ですが、特徴的な栄養成分はカリウムです。含有量は、レタス、キャベツ、とうがん、ピーマンや根深ねぎと同等程度です。カリウムは、細胞内の浸透圧維持、細胞の活性維持などを担っている無機質(ミネラル)です。食塩の過剰摂取や老化によりカリウムが失われ、細胞の活性が低下することが知られています。健康な人においては、カリウム欠乏を起こすことはまずありませんが、わが国では、食塩(ナトリウム)の摂取量が諸外国に比べて多いため、食塩摂取量の低下に加えて、食塩の尿中排泄を促すカリウムの摂取が重要です。

カリウム摂取量を増加することによって、血圧低下、脳卒中予防につながることが動物実験などでも示されています。また、疫学研究においてナトリウムとカリウムの摂取量の比(Na/K比)が高いほど、心血管疾患の増加や全死亡リスクが高くなるという報告もあります。

よって、カリウムを多く含む野菜や果物をしっかり食べ、比率を下げることが重要となります。しかし、必要以上に摂取したカリウムは、通常迅速に排泄されますが、腎機能の低下により、カリウム排泄能力が低下すると、摂取の制限が必要になる場合がありますので、注意が必要です。

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