不安受け入れ 乗り越えよう
新型コロナウイルス

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、国は緊急事態宣言の対象地域を本県を含む全国に拡大した。不要不急の外出自粛が常態化する中で、不安感やストレスが社会全体に蔓延まんえんしている。地震や台風と異なり、目に見えない形で身体的にも精神的にも被害が拡大する感染症。災害派遣精神医療チーム(DPAT)として、集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で、医療活動を行った前橋市の赤城病院長の関口秀文さんに、精神科的側面から、感染症の脅威との向き合い方やストレスの対処法などについて聞いた。

赤城病院長 関口 秀文さん
せきぐち・ひでのり
1981年、東京都出身。埼玉医科大卒。急性期精神医療に力を入れるほか、災害派遣精神医療チーム(DPAT)としてさまざまな被災地支援にも当たる。2017年から現職

可視化しにくい災害

―DPATとして、クルーズ船でどのような医療活動を行いましたか。

国の要請を受けて派遣されました。クルーズ船では、飛び降りなどを考えてしまうような精神的な重症者の抽出方法に苦労しました。他の災害では、支援が必要かどうか評価するスクリーニングシートでの抽出や掲示物を使用した注意喚起などを用いましたが、今回はスマートフォンを用いた遠隔抽出する方法をとりました。メンタルに不調が見られる人を浮き彫りにし、個別に電話対応、防護服での面談を実施しました。

―船内ではどのような精神的な問題があったのでしょうか。

三つのフェーズ(局面)がありました。まずは「薬がなくなった」ことで、寝られない、不安だという声です。もともと精神的な不安がある人が、実際に薬がないことで症状が現れるケースがありました。

次は「患者の搬送」です。夫婦で旅行に来ていたのに、相手が陽性の診断で船外に出て取り残され、愚痴を言うこともできなくなって孤立してしまう。また、濃厚接触者でもあり、感染の不安もありました。

最後に乗客と異なり、介入することがとても難しかったのが、従業員でもある「クルーの支援」です。支援者でもあり、被災者でもあるクルーの方々は非常に頑張っていました。そのため、過重労働となり、精神的な負担もかなり大きくなっていました。現在は、その立場が医療関係者に移っています。一般的な病気に加え、感染リスクを負いながらの治療や看護は、相当のストレスがかかり、医療機関は悲鳴を上げています。

―さまざまな災害支援を経験された中で、今回の感染症が違うと感じる点は。

人や地域によって災害と認識するまでの時間が全然違う。地震や津波、台風では道路や建物などのインフラがダウンしますが、感染症は可視化しにくく、じわじわ進行するため、いまだに災害のスイッチが入っていない人もいると思います。

第1の感染は、身体的な感染。第2の感染は、不安などの心理的な感染で多くの人が今抱えている問題だと思います。第3の感染は、風評被害や差別などの社会的な感染です。地震や台風の災害支援から帰って来た時は「よくやった、お疲れさま」などのねぎらいの言葉を掛けてもらいましたが、今回は違いました。国からは就業制限はないと言われましたが、感染を持ち込んでいるのではないかという周囲からの不安があり、診療を自粛し、自宅に2週間帰らずホテルで過ごしました。

信頼できる情報源

―どのような人が不安やストレスを感じやすいのでしょうか

不安になって当然です。むしろ不安じゃない方が不自然です。みんな不安だということを認識することが重要です。テスト前の緊張と同じで、周りも緊張していると分かっているから乗り越えられる。それが分からないと不安が恐怖に変わります。不安で寝られない、イライラすることは当たり前の反応です。今はそのフェーズに入っていることを知識として持ってください。

―日常生活を送れない不安感やストレスの対処法は。

日常生活に近づけることが大事です。ジムで運動していた人は、外出自粛ですが、「3密」(密閉・密集・密接)を避ければジョギングなど外で運動しても問題はありません。暇だから何もしないで一日中テレビを見たり、スマートフォンで動画を視聴したりして過ごすことは情報過多になるだけでなく、心身の健康によくありません。孤立化しないように、不安や不満など愚痴を言える相談相手を見つけることも大切です。

―情報があふれていますが、どう対応したらいいですか。

情報の過不足、不安な状況、未知のものによって、人は判断能力が低下します。情報は多くても少なくてもよくありません。特に会員制交流サイト(SNS)の普及でデマやフェイクニュースが拡散されやすくなり、何が本当の情報か分からなくなっています。SNSは楽しみ程度にして、疑いの目を持ち、信頼できる情報源を確保することが重要です。

人のために行動を

―マスクの完売で騒動を起こすなど攻撃的行動をする人もいます。

身を守る防衛本能として正常な反応です。利己的になりやすい状況ですが、みんなの安心が社会の安定につながるということに気付くことが必要です。人のために利他的な行動を取ることが、かえって自分自身の身の安全につながります。

―感染者や感染の疑いがある人への差別や偏見、行動歴を責めるケースもあります。

差別や責める気持ちは、相手を排除して自分の安全を認識するという自己防衛の心理が働いています。誰でも感染する可能性があり、一度かかれば抗体ができます。論理的に言えば、感染者は感染現場の最前線で活躍できる“救世主”になるのです。ただ怖いものとして見るのではなく、感染や疑いを言いやすい環境をつくることで早期発見でき、終息にもつながると思います。

―不安やストレスを抱える人たちにメッセージを。

医療やデリバリーなど最前線で働いている人たちがいるから、安全やライフラインが保たれていると認識し、感謝の気持ちを持つことで意識は変わってくると思います。不安やストレスを取り除くのではなく、受け入れてください。物理的な感染はもちろん、社会的な感染を防ぎ、皆さんでこの災害を乗り越えていきましょう。

新型コロナウイルス感染症対策

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