増える「コロナ・スリップ」相談が治療の第一歩

新型コロナウイルスの感染が再拡大する「第2波」の到来が現実的になる中、先行きの見えない不安や自粛による在宅時間が長くなることで、多くのストレスや孤独感を抱えやすい状況が続いている。こうした事態をきっかけに、アルコールなどに依存する問題だけでなく、依存から距離を置いていた人に再び依存症の兆候が現れてしまう「コロナ・スリップ」が問題視され始めている。各種依存症の治療に当たる渋川市の赤城高原ホスピタル院長・竹村道夫さんに、症状や予防策について聞いた。

本人の自覚がない

―依存症とは。

ある物質の使用や行動を続けると重大な問題になると理解しているにもかかわらず、やめられない嗜癖しへきに関わる病気です。

アルコールや薬物、ギャンブル依存症、拒食症や過食症などの摂食障害や窃盗症、最近ではネットやゲーム依存症が増えています。本人が依存症だと自覚して治療を始めることはほとんどなく、家族や周囲の人たちが困って相談に来るのが特徴的です。

―本人の自覚がない中でどのように治療を進めますか。

例えばアルコール依存症の場合、「好きで飲んでいる」と主張している酒害者本人を無理やり専門病院に連れて行ってもうまくいきません。本人の飲酒行動を支えている家族へのカウンセリングから始め、依存症の理解を深めてもらいます。

合併するケースも

―主だった依存症の症状は。

アルコール依存症では、飲酒量や時間、場所をコントロールできなくなります。薬物依存症では、覚醒剤といった違法薬物をイメージするかもしれませんが、実際に多いのは、睡眠薬や安定剤、鎮痛剤などの処方薬、市販薬の乱用です。ギャンブル依存症では、借金をしてでも賭け事をしてしまいます。スマートフォンの普及で、生活や健康面に支障をきたしてもネットやゲームに没頭する依存症が増加しています。

社会的地位があり、経済的に困窮していなくても万引をしてしまう窃盗症は、女性に多い(男性の3倍)。摂食障害を合併するケースは典型例です。依存症は互いに合併しやすい特徴があります。

―依存症に陥る原因は。

不安や緊張から、物質使用や特定の行為を繰り返すうちに自分の意思でやめられなくなってしまう。快楽を感じる脳内の機能異常も大きな要因となっています。

依存症の中でも窃盗症は、自分の責任ではなく不当に扱われている、損をしていると感じ、自分の存在を認めてほしいという心理的飢餓感との結び付きが強いと考えています。例えば、虐待被害や容姿についていじめを受けているなど、家族や周囲から「ありのままのあなたでいい」というメッセージを受けていない人が発症しやすい。

そうした状況から変身願望が生まれ、若い女性ではダイエットがやめられなくなり、拒食症を発症します。病態が進行すると多くの場合、過食と自発的嘔吐おうとを繰り返す過食症になります。摂食障害になると、強い空腹感という生理的飢餓感を持つことになります。

心理的飢餓感に生理的飢餓感が加わると、涸渇こかつ恐怖に襲われ、際限なくものをため込みます。「予備のお金を減らさず商品を入手したい」という思考となり、万引をしてしまいます。心理的飢餓感だけでも窃盗症は発症しますが、摂食障害による生理的飢餓感が加わると一層発症しやすくなります。

対人関係維持を

―コロナ禍が依存症に与える影響は。

自粛生活など社会的不安が発症リスクを高めています。治療を受けて改善していた人が、再び依存し始める「コロナ・スリップ」が問題になっています。専門病院への受診控えをはじめ、経験者や患者が語り合う自助グループの活動ができなくなったことで悪化する人が増えています。

―依存症やスリップを防ぐには。

自身が抱えている問題を隠さず相談できる人間関係をつくることが予防の第一歩です。コロナ禍で外出しにくい時は、電話相談窓口があります。

一方、既に依存症がある人は、専門治療や自助グループなど、回復の手立てとなる対人関係を維持する努力が必要です。

赤城高原ホスピタル院長
竹村 道夫さん
たけむら・みちお
1945年、高知県生まれ。大阪大医学部卒。90年、赤城高原ホスピタル開院、院長に就任。アルコール依存症や薬物乱用、摂食障害や窃盗癖などの治療に当たっている

一人で抱えず相談を

依存症相談拠点
県こころの健康センター

各種依存症の相談体制を充実させるため、昨年4月に県が「依存症相談拠点」に指定した、県こころの健康センター(前橋市)の支援体制などを紹介する。

同センターは、さまざまなメンタルに関する電話相談を受け付けている。新型コロナウイルス感染症に関わる相談が増えたことで、平日のみだった電話相談を6月から土日祝日にも拡大。今年6月末現在の相談件数は約2000件で、昨年同期と比べ、1.5倍以上に増えている。

依存症の相談で多いのは、アルコールの飲み過ぎや暴力、ギャンブルでの借金問題などで多くは家族から寄せられる。同センターでは、電話相談のほかに、医師による個別の面接、本人向けの治療回復プログラム「回復支援塾」(毎月2回)、家族が本人との関わり方を学ぶ「依存症家族教室」(毎月1回)を開いている。

回復支援塾と依存症家族教室では、依存症の悩みを抱える自助グループのスタッフも参加。意見交換などのミーティングを通して依存症を学び、最善の方法を考える。依存症に悩む人たちが置かれた状況を客観視でき、治療に進むための窓口となっている。

同センターの担当者は「本人も家族も一人で抱え込まないでほしい。依存症は回復する病気。困ったことがあったら気軽に相談してほしい」と呼び掛けている。

同センター(027・263・1156)平日・午前9時~午後5時、土日祝日・午前9時~午後1時半。

新型コロナウイルス感染症対策

問い合わせ窓口

県新型コロナウイルス感染症コールセンター
0570-082-820 (平日・土日祝日9時~21時)
時間外は受診相談 027-223-1111
前橋市保健所
027-220-1151 (平日・土日祝日8時30分~21時)
027-224-1111 (上時以外の時間)
高崎市保健所
027-381-6112 (平日8時30分~21時)
027-381-6123 (夜間・土日祝日)
発行
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