その症状
自律神経障害かも!?
群馬大医学部附属病院
脳神経内科
池田 佳生さん
運動や感覚をつかさどる体性神経とは別に、自分の意思とは無関係に全身の器官が適切に働くよう24時間コントロールし続ける「自律神経」。生命維持に欠かせない重要な役割を果たしている自律神経の異常で、さまざまな障害が現れる。群馬大医学部附属病院脳神経内科教授の池田佳生さんは「受診した診療科で原因が分からない場合は自律神経障害の可能性がある」と指摘する。
他の診療科と連携
「自律神経失調症」と耳にすることもあると思いますが、医学的には曖昧な用語です。ここでは精神科的な疾患ではなく、自律神経そのものの機能障害によって引き起こされる疾患を対象とします。
活動時に働く交感神経と安静時に働く副交感神経からなる自律神経は、循環、呼吸、消化、排せつ、発汗、体温調節などの働きに関わっています。そうした機能に異常が現れることを「自律神経障害」と言います。
心拍が不規則な不整脈、急激な血圧低下で立ちくらみなどが生じる起立性低血圧、呼吸中枢の異常による睡眠時無呼吸症候群、消化管の動きが悪いと便秘、過剰だと下痢となる排便障害、自分の意思と関係なく漏れる尿失禁やほとんど排出できない尿閉といった排尿障害、汗が出なくなる無汗症など症状は多岐にわたります。中でも多いのは起立性低血圧、排便、排尿障害です。
起立性低血圧は心臓弁膜症といった循環器疾患、便秘や下痢は大腸がんなどの消化器疾患、排尿障害では前立腺疾患の可能性もあります。初めから自律神経障害の疑いで脳神経内科への受診は少なく、他の診療科と連携して調べることが多いです。
生活習慣の見直しも
自律神経障害の出現には、ストレスなど心理的な要因との関わりも深いですが、糖尿病をはじめ、指定難病である神経変性疾患のパーキンソン病や多系統萎縮症など特定の基礎疾患がある人が引き起こしやすい。
神経障害以外にもさまざまな合併症のリスクがある糖尿病の患者は、予備軍を含めると全国に約2000万人いるとされています。食事や運動など日ごろの生活習慣を見直すことが予防の第一歩です。
全国にパーキンソン病は約12万人、多系統萎縮症は約1万2000人の患者がいるとされています。いずれも発症原因は解明されていませんが、高齢化に伴い増加傾向です。
パーキンソン病では前駆症状(病気が起こる前触れ)として、運動症状を発症する約20年前から高頻度に便秘が出現。その後、大きな寝言などのレム期睡眠行動異常症、そして手足の震えなどの運動障害が現れます。多系統萎縮症における自律神経障害では、高度の起立性低血圧、呼吸や排尿障害のほか、男性では勃起障害が特徴的です。
対症療法で悪化防ぐ
自律神経障害の中には薬物治療で改善することもありますが、誘発因子を減らし、症状を悪化させない対症療法が基本です。食事をすると、消化管に血液が集まり、血圧が下がりやすくなります。これによる食事性低血圧の症状が強い場合、気を失うこともあります。そのため、1日の食事回数を増やして1回当たりの摂取量を減らす方法が有効な場合もあります。排尿、排便後も血圧が低下しやすいので、排せつ後、すぐに立ち上がることも控えることが重要です。
そのほか血圧を下がりにくくする弾性ストッキングの着用、高度の尿排出障害では尿道カテーテルの挿入などを行います。特に尿がたまった状態が長く続くと、重症な尿路感染症につながることもあるので早期の対応が肝心です。
一過性の症状は誰にでも起こり得ますが、持続的、反復的に起きている場合は、自律神経障害の可能性も忘れないでください。