特性に合わせ
治療サポート
認定歯科衛生士
鈴木 奈穂さん
歯や口の中の健康を保つために、治療の補助や歯磨き指導などに当たる歯科衛生士。県歯科総合衛生センター(前橋市)に勤める鈴木奈穂さん(32)は、障害者歯科の認定歯科衛生士として、一般の歯科医院では診療が難しい患者に対応している。患者が安心して治療を受けられるよう、コミュニケーションを大切にしながら一人一人に寄り添うことを心掛けている。
優しい存在が支えに
小さい頃は虫歯が多くて、よく歯科医院に通った。歯医者は怖いイメージがあって行くのを嫌がったりしたが、「歯医者さんの隣でサポートしていたお姉さんに優しくしてもらい、通い続けることができた」。高校3年で進路を真剣に考えた時、手に職をつけ、人の役に立つ仕事に就きたいと思った。子どもの時のことを思い出し、歯科衛生士になることを決意。県高等歯科衛生士学院に進学し、卒業と同時に資格を取った。
診察前に慣れる訓練
新卒で就職した県歯科総合衛生センターは障害者歯科が専門。治療の時にじっと座っていられない、うまく口を開けられないなど、さまざまな理由で地域の歯科医院では診療が難しい人が通う。そうした診療所は多くないため、県内にとどまらず県外からも来ている。
障害者の中には、初めてのことに不安を覚える人も多い。いきなり歯科医師が診察するのではなく、まず環境に慣れてもらうトレーニングをすることも大事な役目だ。
障害の特性によって、トレーニング法はさまざま。絵の方が理解しやすい人にはカードを使って治療の手順などを説明し、吸引装置の音が苦手な人にはできるだけ使わないよう配慮する。「患者さんの家族と相談しながら、一人一人に合った方法を考えている」
患者の日常に変化も
この仕事に就いて11年目。最初の頃は、患者が突然暴れだしたり、道路に飛び出したりする子もいて、「カルチャーショックを受けた」。思うようにトレーニングが進まず、「自分は向いていないのでは」と悩むこともあった。
それでも、先輩の歯科衛生士に相談し、後ろ姿を見ながら経験を重ねた。5年の実務経験に加え、日本障害者歯科学会での発表や筆記試験、面接を経て、県内でも現在わずか6人しかいない障害者歯科の認定歯科衛生士になった。
患者の生活向上につながることも仕事の大きなやりがいだ。最初は診察台に乗ることさえできなかった患者が、何年も毎月通う中で治療に慣れてきただけでなく、社交的になったケースもある。
「患者さんの家族から、通院して子どもの性格が明るくなったと言われた」。障害者歯科がもっと広まり、地域で診療を受けられるようになるのが願いだ。