秋の味覚 「リンゴ」
腸内環境を整える

手にとってリンゴの熟し具合をチェックする田村さん

秋の味覚のひとつ「リンゴ」。全国有数の生産量を誇る本県は、「おぜの紅」や「ぐんま名月」など県育成品種も8種類を数える。赤、黄、緑とリンゴは豊かな色彩に加え、甘味、酸味、香り、食感などにそれぞれ特徴があり、食べ比べてみるのも楽しい。また、デザートとしてそのまま食べるのもよし、アップルパイやジャムなどに加工することで、さまざまな味を満喫することができる。

沼田市北部の山あいに広がる佐山りんご郷。その一角に田村りんご園がある。約1.5haの農園で栽培しているのは、人気の「蜜入りふじ」をはじめ、「紅玉」などの古い品種から本県育成の新品種「紅鶴べにづる」まで30種類。

色付き始めた「紅鶴」

「完熟のリンゴだけを提供しているので、お客さんにとても喜ばれています」と、3代目園主の田村さん。観光農園としてリンゴ狩りを中心に、バーベキューや焼きリンゴなどで来園者を楽しませている。直売も行っており、果汁が多く甘味の強い「ぐんま名月」が特に人気で、収穫を前にして予約で売り切れ状態だという。

「今年は品質が良い」と田村さん。「お盆過ぎから好天が続いたことで、糖度もだいぶ上がっています」とうれしそうに話す。


矮化栽培で収量アップ

田村さんが家業のリンゴ栽培に携わるようになったのは29歳のとき。大学を卒業後、サラリーマン生活を送っていたが、長男としての責任を感じ、父親が還暦を迎える前に後を継ぐことを決意した。「父が元気なうちでないと、栽培に必要な技術や知識を伝授してもらえませんから」

農園には、祖父が戦前に植えたという樹齢80年のリンゴの古木が10本ほどある。だが、大木は少なく、大半は高さ2~3mのスリムな果樹が整然と列をなしている。「今は矮化わいか栽培が主流です」と田村さん。せん定などの作業がしやすいうえ、枝が張らず樹間を詰めて植栽できるので、農園全体の収穫量も以前に比べてアップしている。

主に家族経営だが、作業が集中する摘果や葉摘み、秋の収穫時はパート従業員の力を借りている。「リンゴ栽培で最も難しいのは、冬場に行う枝のせん定です。実の付き具合を左右するので神経を使っています」

食味に優れた「紅鶴」

新品種の「紅鶴」は、県育成品種の「陽光」に早生品種の「さんさ」を交配して生まれた。爽やかな酸味が特徴で、甘味とのバランスがよく、食味に優れている。

4年前に品種登録され、農園には30本が植栽されている。収穫は10月中旬ころから。「今年はようやく、まとまった販売ができそうです」と田村さん。「果皮は鮮やかな赤で、味だけでなく見た目も美しい。ぜひ人気の品種になるようリンゴ好きに広くPRしていきたい」と意気込む。

観光リンゴ園の開園は、9月上旬から3カ月間。夏には同農園で栽培している県育成品種の「おおつぶ星」「あまつぶ星」など約10種類のブルーベリー狩りも楽しめる。「コロナ以前のように、観光バスで大勢の人に食べに来てもらえたら」と願っている。

*制作協力/群馬県農政部

元気な暮らしに 役立つ 栄養のお話
桐生大学医療保健学部
栄養学科准教授
荒井 勝己
今月の食材

由来

リンゴはバラ科リンゴ属の果実です。日本で「林檎」の名が出てくるのは鎌倉時代中頃で、中国から小形の「ワリンゴ」が入ってきました。明治時代には、欧米から大形で食味のよい、「セイヨウリンゴ」が導入され、現在では各地域で様々な品種が生産されています。

成分

リンゴには、“ペクチン”(食物繊維の一種)が豊富に含まれています。ペクチンは、ゼリーやジャムなどをつくるときのゲル化(固める)に必要な成分で、多量の砂糖とレモン果汁などの酸を加えて加熱することでゲル化します。ビフィズス菌などの善玉菌が餌としてペクチンを食べることで数を増やし、腸内環境を整える働きがあります。また、余分なコレステロールやナトリウムなどの腸管からの吸収を抑えるため、血中コレステロール値や血圧の低下などにも効果があります。

リンゴにはカリウムも多く含まれています。カリウムは、細胞の浸透圧や酸・塩基平衡の維持、神経刺激の伝達、心臓や筋肉機能の調節などの働きがあります。また、腎臓でのナトリウムの再吸収を抑制して尿として排泄を促進するため、血圧を下げる働きがあります。

リンゴの皮には、ポリフェノールが多く含まれています。ポリフェノールには、抗酸化作用、糖や脂質の代謝促進による高血糖や肥満・脂肪蓄積抑制効果などの予防改善効果が報告されています。

リンゴの蜜

リンゴの蜜の正体は「ソルビトール」という糖アルコールです。ソルビトールは果実の中でリンゴの甘味であるフルクトース(果糖)やグルコース(ブドウ糖)、スクロース(ショ糖)などに変換されます。しかし、リンゴが完熟すると、ソルビトールは糖分に変換するのをやめて、そのままの状態で蓄積されます。リンゴの蜜は、透き通ったハチミツのような色をしているので甘いように見えますが、実は蜜の部分だけを食べてもそれほど甘くはありません。蜜の入ったリンゴは「完熟」のサインであり、たくさん入ったものほど熟した果実です。時間がたつと蜜の部分は、果肉に吸収されて消えてしまったり、褐変してしまうこともあるため、なるべく新鮮なうちに食べることをお勧めします。

100gあたりの栄養成分値・収穫時期
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