大動脈解離 迅速な対応を

お医者様
県立心臓血管センター
心臓血管外科第一部長
江連えづれ 雅彦さん

血液を全身に送る重要な役割を担う大動脈が突然裂ける「大動脈解離」は命に関わる。活動し始める午前中、冬場での発症が多いともいわれており、急激な寒暖差には十分注意が必要だ。県立心臓血管センター心臓血管外科第一部長の江連雅彦さんは「突然発症し、迅速な対応が求められる。家族に病歴があり、高血圧や睡眠障害がある方は日ごろから健康管理を徹底してほしい」と訴える。

さまざまな病態の要因

大動脈解離は発症直後2週間を急性、2週間から3カ月を亜急性、それを過ぎると慢性と分類して治療に当たっています。これまで一般的な病名として呼ばれていた「解離性大動脈りゅう」は、急性期で血管が裂けた部分がこぶのようになった状態をいい、現在では狭義の病名として使われています。

血管の壁は内側からない膜・ちゅう膜・がい膜の3層構造になっています。内膜の亀裂が中膜に達した部分で裂け、外膜側と剝がれてしまうことを大動脈解離といいます。本来血液が流れている部分を「真腔しんくう」と呼び、解離によって剝がれた中膜間に血液が流れ込んだ部分を「偽腔ぎくう」といいます。

偽腔は血管の壁が薄いため破裂する危険性が高いほか、大きくなり真腔を押しつぶすことや、臓器の細い血管にまで解離が及ぶことで血液が巡りにくくなります。臓器虚血状態になることで、脳卒中や急性心筋梗塞、肝臓や腎臓、腸などの機能障害、手足のしびれといったさまざまな病態を引き起こす要因ともなります。

大動脈解離

経験したことない痛み

マルファン症候群などの遺伝子異常のほか、血管に負担がかかる高血圧、睡眠時無呼吸症候群や不眠症などの睡眠障害などが誘因とされていますが、7割は発症理由が分かっていません。性差なく罹患りかん数は40代から増え、70代が最も多く、人口10万人当たり年間3~5人が発症するといわれていますが、高齢化などに伴い増加傾向であると思われます。

CT検査が普及したことで、大動脈解離と診断される数は増えています。これまで脳卒中や心筋梗塞と診断されていたケースの中には、実は大動脈解離によって引き起こされていたものも含まれていると考えられています。

特に危険なのが、心臓近くに解離が及ぶケース(スタンフォードA型)で、血管破裂を引き起こす可能性が高く、早急に人工血管置換術が必要です。心臓から離れたところでの発症(同B型)は、血圧を抑える内科的治療のほか、場合によってはステントグラフト(カテーテル用人工血管)を挿入する治療も行われます。

A型では胸の痛みが多く、B型では背中の痛みが伴います。いずれも突然これまで経験したことのない痛みに襲われます。

健康的な生活を

原因がはっきりと特定されていないため、予防法が確立していないのが現状です。遺伝的な体質の問題もあるため、近親者で発症した人がいる場合は、特に注意して健康的な生活を送るように心掛けてください。

減塩食に努めるなどして血圧をコントロールし、精神的なストレスを避け、睡眠をしっかり取ることが重要です。過度な運動は控え、30分のウオーキングやジョギングなど軽い有酸素運動を日常生活から取り入れてください。生活習慣を改善することが発症を防ぐことにつながると思います。

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